編集の方針
本書は、漢字の体系的な理解と、字義の展開のあとを考え、またその用語例を通じて、漢字文化の特質にふれることを目的として編纂した。漢字による用語の理解を深めることは、国語の表現をゆたかにする基礎になるものと考えられるからである。
※ この凡例は書籍版「字通」収載のものを再録した。ただし、ジャパンナレッジ版では、Webサイトでの表示にあわせ若干の訂正を加えた。
収録した文字
本書に収録した文字は、次の基準によった。
一、 常用漢字表、人名用漢字別表の文字。
二、 中国の古典に使用例があり、読書や研究の上に、普通に知識として知る必要のある文字。
三、 国語の古典や資料、また近代の文章表現の上に、普通に知識として知る必要のある文字。
四、 漢字の体系、その字形学的解釈の上に、要素的に必要と考えられる字形と、その関連の文字。
五、 収録した親字の字数は、副見出しとしてあげた字を含めて、約九五〇〇字である。
※「常用漢字表」とは、昭和五十六年十月一日の内閣告示「常用漢字表」の本表であり、「人名用漢字別表」は、平成十六年九月二十七日の法務省令「人名用漢字別表」(正しくは「漢字の表」)を指す。
一、 | 常用漢字表、人名用漢字別表の文字。 |
二、 | 中国の古典に使用例があり、読書や研究の上に、普通に知識として知る必要のある文字。 |
三、 | 国語の古典や資料、また近代の文章表現の上に、普通に知識として知る必要のある文字。 |
四、 | 漢字の体系、その字形学的解釈の上に、要素的に必要と考えられる字形と、その関連の文字。 |
五、 | 収録した親字の字数は、副見出しとしてあげた字を含めて、約九五〇〇字である。 |
親字について
常用漢字表、人名用漢字別表にある文字は、それぞれその字形によった。常用漢字には
、人名用漢字には
と、見出し上に附した。
前項の字形が旧字形と異なるときは、旧字形を( )を加えて、副見出しとしてあげた。旧字形には、書き方の違いによるものも含めた。
- 【例】

- 【例】

常用漢字表、人名用漢字別表の文字が、旧字形において別の字であるときは、その旧字形を親字とする一条を、別に設けた。
【例】
缶(
)
カン
缶
フ(別出)
灯(燈)
トウ
灯
テイ(別出)
親字のうち、たとえば〔説文解字〕にあげる古文・籀文(ちゅうぶん)・或(ある)体のように、異体異構の字があるときは、親字の下に、[ ]を加えてあげた。
- 【例】

親字の字形は、一応〔康熙字典〕によったが、字形学的に改める必要のあるときは、一部改めたところがある。


前項の字形が旧字形と異なるときは、旧字形を( )を加えて、副見出しとしてあげた。旧字形には、書き方の違いによるものも含めた。
- 【例】
- 【例】
【例】 | ||
缶(![]() |
カン | |
缶 | フ(別出) | |
灯(燈) | トウ | |
灯 | テイ(別出) |
親字のうち、たとえば〔説文解字〕にあげる古文・籀文(ちゅうぶん)・或(ある)体のように、異体異構の字があるときは、親字の下に、[ ]を加えてあげた。
- 【例】
配列について
親字は、画数順に配列した。ただし、同画数の場合は、その部首の画数順とし、部首画数が同じものは、字音の五十音順配列とした。
音は最も普通に用いられるものにより、すべて表音式によった。
常用漢字表、人名用漢字別表にあげるものは、原則としてその音によった。
上二表に訓のみであげられているものも、字音によってあげた。
【例】 皿(さら)→皿(ベイ)
音は最も普通に用いられるものにより、すべて表音式によった。
常用漢字表、人名用漢字別表にあげるものは、原則としてその音によった。
上二表に訓のみであげられているものも、字音によってあげた。
字の画数について
見出し字の下に、その文字の画数を掲げた。
字の画数は、運筆上の実際の数に従った。たとえば、乏は〔康熙字典〕以来すべて五画とするが、実際の運筆は四画であるから、四画とする。乏を字形中に含む文字の画数も、同様である。
艸部の字は、新字形では草冠は三画とするが、旧字形においては四画として数える。また
も新字形においては三画とし、旧字形においては四画とする。
なお、臣は新字形、旧字形とも六画に数えた。
字の画数は、運筆上の実際の数に従った。たとえば、乏は〔康熙字典〕以来すべて五画とするが、実際の運筆は四画であるから、四画とする。乏を字形中に含む文字の画数も、同様である。
艸部の字は、新字形では草冠は三画とするが、旧字形においては四画として数える。また

なお、臣は新字形、旧字形とも六画に数えた。
四角号碼について
画数の右横に四角号碼の数字を掲げた。
四角号碼の検字法について
四角号碼は、方形の漢字の四隅に、その形によってナンバーをつけ、4けたの数字で示す検字法で、部首や画数によらず、形で引く検字法である。大部な叢書や辞書・辞典の類の索引に、この四角号碼を用いるものが多く、慣れると簡便であり、中国の文献を利用するときに便宜が多い。もと商務印書館の王雲五氏によって創案されたもので、以下はその第二次改訂の検字法による。
- 筆画を10種とし、それぞれ番号をつける。1,2,3は単筆、0,4,5,6,7,8,9は、二筆以上の複筆、複筆のものは分解せず、その形のまま扱う。
号碼 筆名 筆形 挙列 説 明 0 頭 いわゆるなべぶたの形 1 横 横の線、横のかぎ 2 垂 垂れ、左かぎ(左下に垂れ) 3 点 点、磔(右斜めに引く) 4 叉 両筆交叉 5 挿 垂線上に、二筆以上が通る 6 方 四角の形 7 角 角のある形、矩形 8 八 八の形、その変形 9 小 小の形、その変形 - 毎字、四角の筆を、1左上、2右上、3左下、4右下の順にとる。
四角の筆形と順序によって、次のようにナンバーがえられる。
- 字の上部、あるいは下部が、ただ一筆、あるいは一複筆であるときは、左角によってナンバーをつけ、右角は0とする。
すでにナンバーをつけたものは、末端角では0とする。
- 口6000、門7700、鬥7700、行2122の内部に筆画があるときは、60、77、21の次にナンバーを加える。上下左右に他の筆形があれば、これによらない。
- 字体は正楷による。
正 誤 正 誤 - ナンバーをつけるときの注意点
(1)などは、
0と区別し、3とする。
(2)などは、
6と区別し、角7とする。
(3) 角筆の両端は、7とせず、とする。
(4)8は、他筆と交叉するときは8とせず、
とする。
(5)や
は
9としない。
- 四隅のナンバーをとるときの注意点
(1) 複雑な筆画のときは、最も左、最も右の部分でナンバーをとる。
(2) 最左、最右の上下に別筆があるときは、上のものを上角、下のものを下角とする。
(3) 両複筆があるときは、上角では高い部分、下角では、低い部分をとる。
(4) 左にはらった筆のの下に別の筆画ずあるときは、その別の筆画を下角とする。
(5) 左上のはらいを左角とし、右角は右の画筆による。
字音について
字音は、語彙として実際に用いられる音のみをあげた。たとえば重には、字書にチョウ、ヂュ、トウ、ヅ、シュウ、シュの附音があるが、このうち語彙として用いるのはチョウ、慣用音としてのジュウのみであるから、この二音のみをとり、慣用音をもって収めた。
字音は表音式により、旧字音を( )で示した。
- 【例】

字音は表音式により、旧字音を( )で示した。
- 【例】
字訓について
字音の下に、字訓をそえた。字訓は、常用漢字表にあげる主要なもののほか、その字のもつ普通に用いられる訓をあげた。
- 【例】

*常用漢字表には、「イ/こと」の音訓を掲げる。
- 【例】
文字資料について
古代文字の資料として、甲骨文(卜文)、金文、石鼓文、及び〔説文解字〕に収める篆文(てんぶん)・籀文(ちゅうぶん)・古文の字形を収めた。その採集書は次の諸書である。
〔甲骨文編〕十四巻 孫海波 民国二十三年
〔甲骨文編〕十四巻 中国科学院考古研究所編輯 一九六五年
〔続甲骨文編〕十四巻 金祥恒 民国四十八年
〔金文編〕十四巻 容庚 重訂本
〔古文字類編〕 高明 一九八〇年
〔漢語古文字字形表〕 徐仲舒 一九八〇年
〔説文解字〕に収める字形は、主として〔説文篆韻譜〕所収のものによった。〔説文新附〕の字など、〔篆韻譜〕未収のものは、〔大徐本〕〔小徐本〕などによって補った。
上の文字資料のうち、説文解字に収める字形は〔説文解字〕、ついで甲骨文には〔甲骨文〕、金文には〔金文〕、それ以外の文字には〔その他〕と行頭に附して、この順に掲げた。
- 【例】 盂

〔甲骨文編〕十四巻 孫海波 民国二十三年
〔甲骨文編〕十四巻 中国科学院考古研究所編輯 一九六五年
〔続甲骨文編〕十四巻 金祥恒 民国四十八年
〔金文編〕十四巻 容庚 重訂本
〔古文字類編〕 高明 一九八〇年
〔漢語古文字字形表〕 徐仲舒 一九八〇年
〔説文解字〕に収める字形は、主として〔説文篆韻譜〕所収のものによった。〔説文新附〕の字など、〔篆韻譜〕未収のものは、〔大徐本〕〔小徐本〕などによって補った。
上の文字資料のうち、説文解字に収める字形は〔説文解字〕、ついで甲骨文には〔甲骨文〕、金文には〔金文〕、それ以外の文字には〔その他〕と行頭に附して、この順に掲げた。
- 【例】 盂
字形について
字形は六書の法によって、会意・形声・指事・仮借に分かって解説した。字の原義を明らかにし、そこから字義の展開を考える。本義と展開義との関係を明らかにする。
訓義について
訓義の展開を1 2 3の順序でしるす。
- 【例】 他

「他」には、常用漢字表による訓はない。しかしわが国の古辞書にあげる訓には、以上の諸義が含まれており、それを語義の一般的な展開の順序に従って、それぞれ語群として整理した。語義の展開の順序は、歴史的な用義法の展開を考慮した。
- 【例】 他
「他」には、常用漢字表による訓はない。しかしわが国の古辞書にあげる訓には、以上の諸義が含まれており、それを語義の一般的な展開の順序に従って、それぞれ語群として整理した。語義の展開の順序は、歴史的な用義法の展開を考慮した。
古辞書の訓について
わが国の古辞書、〔新
字鏡〕〔和名抄〕〔類聚名義抄〕〔字鏡〕〔音訓
立〕〔竜谷大学本字鏡集〕からとり、そのうち初期訓義の代表として〔名義抄〕、その後の訓義の増加のあるものは、〔字鏡〕以下の書によって補入した。これらの古辞書には、誤写あるいは明らかに誤訓とみられるものは、他の古辞書を参考にして、省略し、もしくは訂正した。
- 【例】 左



- 【例】 左
声系について
その字を声字とする一連の形声字を、声系という。声系の字には、一系の声義をもつものが多い。
- 【例】 它

- 【例】 它
語系について
語原的に同系と考えられるものを、語系としてまとめ、その声義の関係を説明する。語系については王力氏の〔同源字典〕にかなりの整理が試みられており、たとえば墮について、墮duai、
tuai、
diu
t、
du
iをあげているが、墮が肉が崩れおちることを原義とすることからいえば、多tai、墮duai、朶tuaiという関係を考えることができる。多は肉を重ねる形、朶は花が崩れこぼれるような状態をいう。
- 【例】 堕






- 【例】 堕
用語例について
用語例の語彙は〔熟語〕として掲げ、二字の連語に限定した。掲出は、次の方式による。
語彙の次に字音のよみをつける。よみは表音仮名を用い、字の本音が表音と異なるときは、その本音(字音という)を( )内につける。
よみの次にわけを加える。わけは用語例によって理解されることが望ましいので、簡略なものにした。
次に用語例をあげる。用語例には、出典として、書籍のときには〔 〕内に書名・
名、作品のときには作者名を附して〔 〕内に作品名をあげる。
用語例の詩文は、すべて古典として扱うものであるから、旧漢字・歴史仮名遣いとする。
書名・
名は固有名詞として扱うので、常用漢字、人名用漢字別表による表記とする。
引用文中の難読の字には、よみをつける。よみは字音仮名による。
引用文中の難解な語には和訓、( )内に解釈、あるいは説明を加える。
引用文のうち省略する部分は~を以て示す。
- 【例】 京

- 【例】 焼

語彙の次に字音のよみをつける。よみは表音仮名を用い、字の本音が表音と異なるときは、その本音(字音という)を( )内につける。
よみの次にわけを加える。わけは用語例によって理解されることが望ましいので、簡略なものにした。
次に用語例をあげる。用語例には、出典として、書籍のときには〔 〕内に書名・

用語例の詩文は、すべて古典として扱うものであるから、旧漢字・歴史仮名遣いとする。
書名・

引用文中の難読の字には、よみをつける。よみは字音仮名による。
引用文中の難解な語には和訓、( )内に解釈、あるいは説明を加える。
引用文のうち省略する部分は~を以て示す。
- 【例】 京
- 【例】 焼
その他の語彙について
用語例をあげる語彙のほかに、用語例をあげずに、二字の語彙のみを、よみと簡単な訳を加え示した。
【例】 良

【例】 良 |
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下接語について
その字を下におく連語を下接語という。字の用義法として、また語の構成法として、下接語の語彙を必要とすることが多い。それで最後に〔下接語〕の一覧を加えた。〔佩文韻府〕は韻字を下接語とする語彙を収録するものであるから、主として〔佩文韻府〕によって語彙を拾い、また他書によって補入した。
- 【例】 涼

- 【例】 涼
付録について
付録として、作者解説、書名解説と、平仄一覧とを加えた。用語例をなるべく具体的に理解するために、作者と出典書名についての知識を必要とすることがあるので、この両者を加えることにした。
作者については秦漢以後、時代別、年代別に配列した。通覧して、人物史を通じての時代観を養う一助ともなることを期待している。人名について経歴不明の若干については、省略したものがある。
書名作品解説については、経・史・子・小学(文字学)・類書・総集・叢書のほかは、すべて五十音順に配列した。書名については、用語例にみえないものでも、事実上は類書・総集・叢書から採録したものがあり、そのような関係の書をも加えた。
作者については秦漢以後、時代別、年代別に配列した。通覧して、人物史を通じての時代観を養う一助ともなることを期待している。人名について経歴不明の若干については、省略したものがある。
書名作品解説については、経・史・子・小学(文字学)・類書・総集・叢書のほかは、すべて五十音順に配列した。書名については、用語例にみえないものでも、事実上は類書・総集・叢書から採録したものがあり、そのような関係の書をも加えた。
平仄一覧について
本
の親字の下に東・冬のように韻名を加えるのにかえて、各字の韻目韻字表、また字の全体を五十音順に配列して、それぞれ平仄を分かつ平仄韻字表・両韻字表を附載した。韻・平仄を検し、また詩作の便宜に供するためである。
