このところ「老後破産」という言葉が週刊誌で目につく。嫌な言葉である。

 私を含めて、長い付き合いのあるフリーライターの多くがこうした事態に直面しているから、なおさらである。

 私事で恐縮だが、私が講談社に入社して『週刊現代』編集部に配属されたのは1973年の春だった。当時の『現代』のライター(データマン)の多くは大学時代に学生運動にのめり込み、除籍や退学になった強者たちだった。

 テーマが決まれば取材先に飛び出していって、締め切りの夜は「馬に喰わせるほどのデータ原稿」を書きまくった。当時はペラ(200字)1枚いくらという払い方をしていたから、内容はともかく多く書いたほうがカネになった。

 取材力よりも腰の軽さが買われ、私の給料の何倍も稼ぐ若い記者たちがいた。だがこの商売、歳を重ねると収入が増えるという仕組みにはなっていない。大宅賞などを受賞した書き手でも、大御所過ぎて使いにくいと敬遠されて仕事がこないこともままある。

 60歳を超えるとさらに仕事は激減する。私と同年代で何とかやっているのは、奥さんが公務員など現役で働いている人が多い。若いころ稼いだカネを貯めていて、老後の暮らしを立てているというライターはほとんどいないと思う。

 東京近郊に住んでいる某ライターは、電車賃がないといって都内に出てこないし、某先輩ライターは、家で倒れて奥さんが救急車を呼んだところ、救急隊員に「カネがないから病院には行かない」と苦しい息の下で言い張った。

 このようなライター哀話は枚挙にいとまがないから、この辺で『週刊文春』(10/30号、以下『文春』)と『週刊現代』(11/1号、以下『現代』)の「老後破産」の記事について見てみよう。

   『文春』では千葉市郊外に住む65歳になる山田清志氏(仮名)のケースが紹介されている。山田氏は上場企業にいて年収は1000万円近くまでいったという。妻も働いていて月収40万円あったそうだ。

 94年、44歳の時に二階建ての建て売りを購入。頭金を1000万円入れて3900万円の35年ローンを組んだ。月々12万円で年2回のボーナス時に30万円。住宅ローンが払えなくなるとは夢にも思わなかったという。

 だが定年を迎えるころに退職金が減額されて1000万円に届かず、再雇用の条件も悪くなった。定年を迎えてから人生が暗転する。妻が病気になり、医療費はかさむが収入は大幅に減り、貯金を取り崩して5年頑張ったが、とうとうボーナス時の30万円が払えなくなってしまった。

 やむなく自宅を売却したが600万円もの借金が残ってしまった。債権者と交渉して月3万円の返済にしてもらったが、それでも月20万円の年金だけでは、いずれ自己破産するしかないかもしれないと話している。投資もギャンブルも浮気さえしたことがないのにと肩を落とす。

 全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の佐々木延彦代表によれば、破綻の相談は今年に入って、昨年の倍の年間1000件に達する勢いだという。破綻に至る理由は、高額購入、退職金の減額、リストラ、病気、離婚など様々だが、相談に来る人たちに共通するのは、ローンを組むときに破綻を想像した人は一人もいないということである。

 ほかのケースも山田氏と似たり寄ったりで、年収や退職金が右肩下がりになることを、ローンを組む時点では想定していなかった。

 佐々木代表は「住宅ローンは、頭金三割を用意して、返済額は月収の二十%に抑えるべき」だとアドバイスをするが、われわれの世代ではもはや手遅れである。

 この中にも住宅ローンの滞納で家を強制競売にかけられたケースが出てくる。妻が今いる家から離れたくないと言い張ったため、売る時期を逸してしまったのだ。競売を待つのではなく、債権者と交渉して裁判所を通さずに売却して借金を整理する「任意売却」というやり方もあるそうだ。

 これも私の友人のライターの話だ。彼は私より少し上で、事件ライターとしては一流だった。その彼がしばらく前に私を訪ねてきて「悪いけど600万貸してくれ」といきなり切り出した。

 そんな大金を右から左に動かす財力もないが、事情を聞いてみた。彼は女房と離婚して湘南のほうで一人暮らしだったが、なかなか書いた本も売れず、サラ金に手を出したのだ。それが積もり積もって600万円にもなり、家が競売にかけられるというのだ。

 競売にかけられれば彼の手元にはほとんど残らない。何とかしてくれというのだが、私にもいい知恵が浮かばない。

 そこで不動産にくわしい私の友人に相談し、不動産を手広く扱っている若い友人にも相談したが、競売の時期が迫っているので打つ手は限られていた。

 そこで一か八か、競売に友人が入札しようと言い出した。ライターの家はやや立地に難があるものの資産価値は1500万円ぐらいはあるという。そこで競売と同時に1200万円ぐらいで入札し、運がよければそれを超える買い手が現れるかもしれないというのだ。

 もしダメだったら友人の不動産屋が買い取ってくれると言ってくれた。その狙いは見事にあたり1400万円ほどで落札されたのである。

 彼の手元には6~700万円ほどが残ったのではないか。もちろん大変な喜びようで一夕、中野駅近くの日本料理屋で歓待してもらって、深夜までカラオケを一緒に唄った。

 神奈川県の厚木のほうの古いアパートを借り、これから心置きなく執筆に専念すると笑顔で別れた。

 それから2週間ぐらい後、酔って帰ってきたのだろう、家に入って何かに躓き、硬いものに頭をしたたか打ち付け、大家が発見したときは死んでかなりの時間が経っていた。

 「老後破産」という言葉を見るたびに彼のことが思い出される。

 『現代』では、リタイアした後「オレはずっとこれをやりたかったんだ」と言い出し、300万円もするヨット買ってしまった男や、九州の古民家に引っ越して椎茸栽培をやると、妻が反対するにもかかわらず移り住んでしまった男、早期退職してソバ屋になると言い出した男などの話が紹介されている。

 こうした定年後は自分のやりたかったことをやるという“夢見る夢男”タイプが、老後破産予備軍だというのだ。

 私にも退職後にやりたいことがあった。それは高校時代にやっていたエレキギターを正式に習うことだ。退職金からカミさんがエレキギター代として30万円をくれた。

 これだけあれば若いころ憧れたフェンダーのギターが買えると喜んだが、いつの間にかそのカネは飲み代となって消えてしまった。

 『現代』には「『熟年離婚』指数が分かるチェックシート」というのがある。定年後「田舎暮らしがしたい」などというこだわりがあるか、セックスの相性は、家事への参加度は、妻との人間関係は、などの設問がある。自己採点したら30点以下。ひどい夫で、離婚を言い出されても仕方ないと出た。そうだろうなと頷くしかない。

 『週刊ポスト』(10/31号)によれば、官僚たちが進める年金額引き下げの「企み」が着々と進行していて、年金受給年齢を70歳にまで引き上げようとしているという。さらに「マクロ経済スライド」という仕組みで、物価が2%上昇しても受給額は1%ほどしか増えないそうだ。

 たとえば現在、夫70歳妻65歳で月に20万円の年金があるとすると、10年後には18万円になってしまうそうだ。

 この国の政治家や官僚たちの「本音」は、年寄りはダラダラ長生きしてはいけないということなのだ。年寄り冷遇ランキングというのがあれば、この国は間違いなくナンバー1になる。そのうち本気で「姥捨て山」「爺捨て山」をつくるかもしれない。長生罪を議員立法で成立させるかもしれない。勝新の座頭市の台詞ではないが「嫌な渡世」じゃござんせんか。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は週刊誌らしい記事を3本取り上げてみた。小渕優子の政治資金問題を取り上げるのも週刊誌の柱の1本だが、そういうスクープがないときは、読者の素朴な怒りを代弁する記事やテレビ、新聞が絶対扱わない皇室もの、そして私が現役時代に担当した風俗情報などが部数の下支えになる。

第1位 「巨人“CS『敗退』戦犯”坂本&澤村が4連敗の夜に六本木で『ハイタッチ』合コン」(『週刊ポスト』11/7号)
第2位 「日本一高級なソープランドで人生観が変わった!」(『週刊現代』11/8号)
第3位 「美智子さまが憂慮される愛子さま『独りぼっちの特別授業』」(『週刊文春』10/30号)

 『文春』と『新潮』は皇室についての記事が多いことはみなさんよくご存知だと思う。これまでは雅子妃バッシングが中心だったが、ここへきて愛子さん批判も目につくようである。
 まだ中学1年生なのだから、温かく見守ってあげればいいのにと私などは思うのだが、『文春』は巻頭で美智子皇后も愛子さんに「セラピーが必要」ではないかと漏らされたと報じている。
 『文春』が目撃したところ、二学期が始まった9月6日以降でも、遅刻が4回、欠席が2回、9月26日以降は3週連続で午後から登校したという。しかも登校してもクラスでほかの生徒と一緒ではなく、特定の科目ではマンツーマンで授業を受けているというのだ。
 こうしたことを知った美智子皇后が千代田関係者にこう口にしたというのである。

 「十月に入り、皇后さまは愛子さまについて、セラピーが必要な段階に来ているとはっきり仰いました。(中略)  愛子と話していても、愛子にとって適切な対応が取られているようには思えない、ということでした。皇后さまからご覧になって、愛子さまのお側には適任と思われる臨床心理士や児童や思春期の問題に詳しい専門家はいらっしゃらないというお考えなのです」(東宮職関係者)

 このようなことを皇后が漏らしたのだとすれば憂慮すべき事態だとは思うが、雅子妃の病状もなかなか回復しない中で、あまり騒がないほうが愛子さんのためにもいいのではないか。
 いつもこうした記事を読んで感じることだが、われわれ国民ができることは、温かく皇太子一家を見守ることしかない。どこの家庭でも少なからず問題はある。皇室とて例外ではないのだから。

 第2位。お次は『現代』の「お家芸」といえる風俗記事、高級ソープランドの体験記だ。吉原の高級店でも120分で8~10万円が相場だという。だが、このソープは200分で17万円。
 私が驚くのは値段もそうだが3時間20分という時間の長さである。そんなに長い間保つのかいな。それもこのセックス担当記者は52歳だというのに。
 だが、そんな心配も女優・新垣結衣(あらがき・ゆい)似の美女の至れり尽くせりのサービスで杞憂に終わる。
 何しろ会ったとたんに「即尺」(説明は省く)、別の部屋に行って服を脱がされ全身を舐め舐めされ挿入して1発。
 一息ついて身体を隅々まで洗ってもらっているうちにムラムラときて2発目。ビールを飲んだりしながらローターと小型マッサージ機で彼女をコーフンさせて3発目。マッサージが得意だという彼女に揉まれているうちにモコモコしてきて4発目。
 行き帰りは送迎付きだそうだが、この記者氏、帰宅後に彼女のことを思い浮かべて一人でもう1発したというのだから、計5発。この御仁相当な性豪である。
 読んでいるこっちが疲れ果てる。いやはやご苦労さん。

 第1位。私は由緒正しい父子二代の巨人ファンである。私はCS(クライマックスシリーズ)廃止論者だ。
 長いシーズンを戦ってせっかくリーグ優勝を果たしても、今年の巨人のようにCSで負ければ日本シリーズに出られない。
 これでは何のためのペナントレースなのか。目の肥えた野球ファンならシーズン後半の見物は3位4位争いになるはずだ。
 大リーグと違って6チームしかないリーグで3位までがCSに出られるというのでは、やっている選手はともかく、野球ファンは熱が入らない。
 パ・リーグもソフトバンクがリーグ優勝しながらCSで涙をのんだことがある。
 昔、広岡達朗氏に話を聞いたことがあった。彼は名選手でもあったが監督になっても名監督と謳われた。
 その広岡氏が、日本シリーズのような短期決戦は監督の頭脳が試合の行方を左右するのだと言っていた。
 短期決戦だからといって初戦からしゃにむに総力戦で戦おうとすると、後半までもつれたとき手のうちようがなくなってしまうというのである。第1戦を勝つことは重要だが、もし負けても2戦から7戦までをどう戦うかを組み立て、落としてもいい試合は戦力を温存して戦うのが、優れた監督だと言う。
 今年の巨人はリーグ優勝しながら、CSでは阪神に全く歯が立たなかった。原辰徳監督というのはあまりほめられた監督ではないと、私は思っている。それは、チームが不調の時、どう戦うかという戦略がないからである。
 バッティングは水ものだからアテにはできない。投手のローテーションを綿密に組み立てることができなければ、短期決戦は勝てない。
 ここ数年、ペナントレースはほとんど見ないがCSと日本シリーズは、巨人が出ていなくても見るようにしている。
 それは試合が真剣勝負だからだ。巨人が惨敗したから言うのではないが、阪神とのCSはつまらなかった。投手の不出来はいうに及ばず、打者に相手投手に向かっていく闘志が感じられなかったからだ。野村克也氏の言うとおり、勝ちに不思議の勝ちはあるが負けに不思議の負けなしである。

 そんな不甲斐ない戦いをした巨人の中心選手が、『ポスト』によれば、CS敗退の夜に六本木のクラブに現れ、VIPルームで女の子たちと合コンをしていたというのである。
 あの日私はあまりの情けない負け方に酒を飲む気にもならず、ふて寝してしまった。なのにである。巨人ファンには許しがたい「蛮行」である。
 その二人とは坂本勇人(はやと)内野手と澤村拓一(ひろかず)投手である。その上阪神の選手も一緒だったというのだからなにをかいわんやである。
 坂本選手はVIPルームから出てこなかったというが、澤村投手は「ガンガン飲んで酔っ払った勢いで店内中央のダンスフロアに向かい、一般客に交じって踊りまくっていました」(常連客)
 澤村は今年二軍落ちするなど戦力にならず、CS第2戦でも先制点を与え、5回には危険球を投げて退場になっている。
 私のような巨人ファンがその場にいたら、何という無様な負け方だと一言言ったかもしれない。巨人軍は球界の紳士たれという教えも、この連中は聞く耳など持たないのであろう。
 巨人とヤンキースがあまり強すぎて「くたばれ!」とののしられた昔が懐かしい。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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