1945年(昭和20)の長崎への原子爆弾投下時に、爆心地から半径12キロメートル圏内にいながら、国が定めた被爆区域(爆心地から南北に約12キロメートル圏内、東西に約7キロメートル圏内の楕円形状)外にいた人たち。原則として被爆者とは認定されず、被爆者健康手帳を交付されない。被爆体験者は「放射線による直接的な身体への健康被害はない」とされており、健康状態に応じて被爆者に給付される健康管理手当、介護手当、葬祭料などの援護施策は受けられない。ようやく2002年度(平成14)になって、年に1回、健康診断のみで精密検査は対象外という「第二種健康診断受診者証」が発行されるようになった。この受診者証をもち、さらに健康診断の結果、被爆体験による特定精神疾患にかかっているとされた人にのみ、「被爆体験者精神医療受給者証」が交付され、被爆者と同等に、ほとんどの疾病の医療費(自己負担分)が無料となった。
なお、同じ被爆地の広島では、国が定めた被爆区域外で、原子爆弾投下直後に広島と長崎に降った、放射性物質を含む雨(いわゆる「黒い雨」)を浴びるなどした人は被爆者に認定(国の上告断念により2021年の広島高等裁判所判決が確定)されており、被爆体験者制度は設けられていない。
長崎の被爆後の施策をめぐっては、2000年代初頭から、「被爆者」との援護措置の差が大きいとして、「被爆体験者」から救済を求める声が後を絶たず、2007年以降、相次いで被爆者健康手帳の交付(被爆者認定)を求めて訴えが起こされた。2019年の最高裁判所判決で被爆体験者(原告)の敗訴が確定したものの、その後、一部被爆体験者が再提訴し、係争が続いている。ただし、前述のように2002年から長崎被爆体験者支援事業が開始され、「被爆体験者精神医療受給者証」をもつ人には被爆者並みに医療費が給付されるようにはなっている。
もうひとつの被爆地である広島では、2021年に「黒い雨」訴訟で原告勝訴が確定したため、翌2022年4月には、黒い雨にあい、かつ、「11種類の障害(代表的な疾病:再生不良性貧血、肝硬変、悪性新生物、甲状腺(せん)機能低下症など)」のいずれかにかかっているという二つの要件を満たす人には被爆者健康手帳が交付されることになった。
一方、長崎では2023年4月から、「被爆体験者精神医療受給者証」をもつ人に限って、胃がん、肝臓がんなど7種のがんに対して医療費の助成が始まり、また、長崎県外に転出しても継続して援助が受けられるようになった。さらに、長崎地方裁判所は2024年9月に、被爆当時に長崎市の東側でも、「黒い雨」による被害があったとして原告の一部を被爆者と認め、手帳を交付するよう命じた。国はこの判決を受け入れず控訴したが、同年12月には被爆体験による特定精神疾患の要件を撤廃し、「11種の障害」のいずれかを伴う疾病にかかっている被爆体験者については、被爆者と同等の医療費給付が受けられるようにした。しかし、長崎では、すべての被爆体験者を被爆者と認定するよう求めており、被爆体験者訴訟は解決には至っていない。2024年(令和6)3月末時点で被爆体験者は約6300人。