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日本大百科全書(ニッポニカ)

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トランプ
とらんぷ
Donald John Trump
(1946― )

アメリカ合衆国第45代(在任2017~2021)・第47代大統領(同2025~ )。1946年、ニューヨーク市で生まれる。不動産開発業を営む一家に育ち、フォーダム大学を経てペンシルベニア大学ウォートン・スクールに編入し、不動産経営を専攻。1971年に父の会社を受け継ぐと、事業の中心を中所得者層向け住宅から高級不動産開発やリゾート開発へと移した。1983年にマンハッタン5番街に完成したトランプ・タワーはその象徴的建築物であり、傘下の数百の企業を束ねるトランプ・オーガニゼーションの中枢である。20歳代からマス・メディアに積極的に登場し、2004年から2015年まで放映されたビジネス・リアリティ番組「アプレンティスThe Apprentice」(NBCテレビ)の司会として顔を広めた。その間に、海外でのゴルフ場事業やリゾート事業にも乗り出した。

 1980年代よりたびたび政界進出がうわさされ、2000年の大統領選挙ではアメリカ改革党の候補者指名を競ったが撤退。第二期オバマ政権が任期満了を迎える2016年大統領選挙で、「偉大なアメリカをふたたび(Make America Great Again:MAGA)」「アメリカ第一主義」をスローガンに掲げ、共和党から出馬した。知名度は高いものの、政治経験が皆無であることから泡沫(ほうまつ)候補とみられていたが、政治エリートを既得権益層と批判することで支持を集め、下馬評を覆して指名獲得。本選では、中部や南部の地方票、産業の疲弊したラストベルトの白人労働者層・中間層の票を取り込み、民主党候補ヒラリー・クリントンに勝利。政治家としての経歴、軍人としての経歴のいずれももたない、初の大統領が誕生した。

 アメリカの内外に「敵」をみいだし、その排除を唱える政治手法が特徴的であり、分断と対立時代のアメリカを象徴する大統領である。2016年選挙における第一の公約は、メキシコや中南米からの非正規移民や難民を減少させること、なかでもアメリカ・メキシコ国境の警備を強化することであった。そして、国境壁の建設予算をメキシコに負担させると主張した。就任後には、国家非常事態を宣言し、議会による予算承認を回避して大統領令によって予算を確保するという異例の手法をとった。そのほかにイラスム系移民の入国を制限する大統領令をたびたび発した。

 国際関係においては、二国間交渉とりわけ首脳同士の「ディール(取引)」を好む姿勢が目だった。中東政策では、2017年、エルサレムをイスラエルの首都と承認するとともに大使館を移転し、イスラエル寄りの姿勢を鮮明にした。2018年、イランによる核開発を制限するため、同国と国連安保理常任理事国(米英仏中露)およびドイツの6か国が2015年に結んだ合意から離脱し、独自制裁に踏み切った。2020年には、イスラエルと、アラブ首長国連邦をはじめとするアラブ4か国との和平を仲介した(アブラハム合意)。北朝鮮に対しては、2018年に史上初の米朝首脳会談を行った。しばしば首脳会談に用いたフロリダ州の自社ゴルフリゾート内の別邸「マー・ア・ラゴ」は、第二のホワイトハウスとして知られるようになる。

 経済・貿易分野でも多国間の枠組みを嫌い、2017年、アメリカが主導してきた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉から離脱。その結果、2018年、残る11か国によりCPTPPが発足した。また、NAFTA(ナフタ)(北米自由貿易協定)を解消し、自由貿易色を弱めたUSMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)が2020年に発効した。アメリカ国内の産業復興をうたい、国内製造(原産地規則)を強化したことは、日系自動車企業の戦略にも大きな影響を与えた。また、経済活動の妨げとなるとして、2020年、二酸化炭素削減のためのパリ協定からも離脱。とりわけ関税政策を、アメリカの利益を最大化するための主要手段として重視。最大の貿易赤字を抱える中国に対しては、2018年以降、関税を大幅に引き上げた。中国が報復関税を課したことで米中の貿易摩擦はいっそう激しくなった。多国間の調停を担う世界貿易機関(WTO)にも批判的であり、アメリカが人事案に反対したことで定数を満たせなくなったWTO上級委員会は、2019年12月以降、その調停能力を喪失した。

 二期目を目ざした2020年の大統領選挙では、任期中の新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)の拡大も一因となり、オバマ政権下の副大統領ジョー・バイデンに敗北。しかし、不正に勝利を奪われたと主張し、政権移行を拒否。選挙結果の最終承認日である2021年1月6日にトランプ支持者たちが連邦議会議事堂に乱入し、5名が死亡するという事件が起きた。

 襲撃事件における扇動を問題視した主要SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)会社がトランプの個人アカウントを凍結すると、自前のSNS「トゥルース・ソーシャルTruth Social」を立ち上げ、その後も発信力を保った。大統領選のスローガンから始まったMAGA運動の支柱の一つが「ディープステイト」理論である。これは、公選された政治家とは別に、官僚機構、情報機関、大企業、エリート集団、メディアなどがひそかに国家を操っているとするものである。こうした影の権力機構による「フェイク」を暴き、「トゥルース」を届けるというポピュリスト的レトリックは、社会の分断を助長するSNS上のネット空間において訴求力を発揮した。

 二期目の大統領選に敗れ、バイデン政権となってからも、実際には、第一期トランプ政権の影響は、公的な統治機構に色濃く残っている。一例が、連邦最高裁判所である。第一期任期中にトランプが3名の最高裁判事を任命した結果、保守派判事が3分の2を占めるようになり、その判決はトランプの思想との親和性を高めている。たとえば、大学入学選考におけるアファーマティブ・アクションを違憲とした2023年の判決である。これは2025年1月発足の第二期政権が発令した、すべてのDEI(Diversity, Equity and Inclusion:多様性、公平性、包括性)指針を「逆差別」と定義した大統領令の根拠とされた。また、2024年7月、最高裁は議事堂襲撃における扇動行為を免責した。この判決は、議事堂襲撃事件におけるトランプの責任という直接の争点にとどまらず、在任中の職務に関わる行為によって、大統領は退任後に訴追されることはないという広範な内容であり、第二期の政権運営の後ろ盾ともなった。

 2022年、2024年大統領選への出馬を表明。その後の大統領選では異例の展開が続いた。まず、共和党予備選では他の候補者との討論会を拒否し、独演会やSNSによって支持を拡大し指名を獲得した。さらに2024年7月、民主党は高齢のバイデンが選挙半年前に撤退を表明し、副大統領カマラ・ハリスKamala Devi Harris(1964― )が急遽(きゅうきょ)民主党候補となった。バイデン政権期の4年間で進んだインフレ、格差の拡大に対する不満や、民主党支持層内での利害の不一致等も一因となり、民主党の伝統的支持層であった黒人男性やラティーノ(中南米およびカリブ海諸島などのスペイン語圏出身者)の間にも支持基盤を広げたトランプはハリスを破り、第47代大統領に返り咲いた。

 第二期の政権運営は、第一期よりいっそう強権的となった。要因として、大統領職は2期8年までとした憲法の規定により再選を考慮しなくてよいこと、最高裁が実質的に政権の成立前に免責を与えたこと、閣内にも共和党内にも批判者がいないことなどがあげられる。第一期中にトランプに異を唱えた計13名の閣僚が更迭または辞任に至ったことから、第二期の閣僚人事では、発足当初からトランプへの個人的忠誠を、経験や適性より重視した。2016年当時、多くの議員はトランプを政治経験が皆無の素人とみており、党内にも批判者は多かった。しかし、その後の8年でトランプに批判的な共和党議員の多くは引退、またはトランプ派の候補に敗れ議席を失い、共和党自体もトランプの政党としての性格を強めた。

 第二期の大統領令の数は、就任2か月で第一期4年間の半分に達し、司法判断が追いつかない早さで実行に移された。その射程は広範で、議事堂襲撃事件で有罪判決を受けた1500人の恩赦や、民主党寄りの大手法律事務所に対する連邦施設立ち入り禁止令など、個人的な好悪に基づくものも多い。

 また、法的な確実性よりも迅速性や個人的関係を重視する政治手法の象徴が、実業家イーロン・マスクElon Reeve Musk(1971― )率いる「政府効率化省(Department of Government Efficiency:DOGE)」である。大統領令に基づくDOGEは公式な省ではなく、マスクも議会承認を経た閣僚ではない。議会の設立した省庁より強大な権限を、自身の支援者である巨大企業のオーナーに与えたことについて、法的根拠の乏しさに加え、安全保障上の懸念も寄せられている。DOGEによる連邦機関縮小策のなかでも、冷戦以来のアメリカの対外政策の要であった「国際開発庁(United States Agency for International Development:USAID)」の再編と対外援助資金凍結は、アメリカの変節の象徴としてとりわけ国際社会の注目を集めた。

 第一期同様、トランプは関税政策を「ディール」の主要な武器と位置づける。しかも第一期とは異なり、その矛先を全世界に向けることを表明。たとえば、友好的な隣国カナダに高関税を課し、「51番目の州」と軽視したことは同国での反米感情を高めた。また、非正規移民の摘発・送還といった、貿易とは直接関係しない政策分野においても、関税を他国との交渉カードとして用いるようになった。

 アメリカとカナダの関係が象徴するように、外交政策は、同盟関係や歴史的な友好・対立関係に準拠するかわりに、大国間の関係を重視し、アメリカ第一主義による、より短期的な視点でのアメリカの利益を追求する性格を強めた。たとえば、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵略について、ウクライナやヨーロッパ連合(EU)などが提出した国連決議に反対票を投じるなど、ロシア寄りの姿勢をみせた。またNATO(北大西洋条約機構)がアメリカに過度に依存しているとして、加盟国の防衛費増大を要求。さらに、NATO加盟国デンマークの領土であるグリーンランドの「購入」を提案し、パナマ運河をパナマ共和国から「取り戻す」ことを宣言するなど、領土の拡張や海外権益への意欲を露骨に表した。

 「偉大なアメリカをふたたび(MAGA)」というスローガンは、第二次世界大戦後、自由主義世界の盟主を自認してきたアメリカがその地位を回復することを目ざすものではない。中国の台頭やグローバルサウスの伸長をはじめとする国際情勢の変化のなかで相対的に国力が低下したアメリカが、自らその地位を降り、覇権的に自国の利益を求めることを意味する。国際社会が新たな時代を迎えたことを象徴する大統領である。

[小田悠生]2025年5月20日

©SHOGAKUKAN Inc.

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