政府が、自国民の国籍や身分を証明し、外国政府に保護と扶助を要請する公文書。国際的に通用する世界共通の身分証明書で、パスポートともよばれる。海外渡航の際には、渡航先の査証(ビザ)とともに旅券が必要である。日本では旅券法(昭和26年法律第267号)に基づいて外務省が発行。一般旅券、公用旅券、外交旅券、緊急旅券の4種類がある。一般旅券の有効期間は5年(紺色)と10年(赤色)から選択できるが、18歳未満の者は、著しい容貌の変化が想定されるため5年のみ。期限内であれば何度でも出入国できる数次往復旅券(マルティプル旅券)であり、1回のみ使用の一回旅券(シングル旅券)は北朝鮮渡航を除き、1990年(平成2)に廃止された(旅券法上の制度は残存)。残存有効期限が1年を切ると新しいパスポートへの切り替え申請が可能になる。なお、入国時に必要とされる残存有効期間については、滞在期間の予期せぬ延長などにも備えたもので、渡航先国ごとに異なり、不足すると入国できない。2025年(令和7)4月時点で、韓国は3か月、中国、インドネシア、アラブ首長国連邦などは6か月以上残っていることが必要、あるいは望ましいとされている。難民条約・難民議定書に基づき、難民に交付される難民旅行証明書(法務省発行)もある。旅券の大きさは、国際民間航空機関(ICAO(イカオ))の勧告を受け、1992年にISO規格に準じたB7サイズになった。2006年(平成18)から氏名、生年月日、外務大臣の署名、顔写真などの電子データを記録したICチップの内蔵(緊急旅券を除く)が始まり、2025年から氏名や顔写真などの掲載ページを偽造しにくいプラスチック基材にレーザーで印字・印画するように変えた。都道府県窓口に戸籍謄本(抄本)、住民票、写真、身元確認できる運転免許証などをそろえたうえで申請する。オンライン申請(新規・更新)も可能で、マイナポータル(マイナンバー専用サイト)で戸籍情報と連携申請すれば、戸籍謄本は不要。発行手数料は、10年有効旅券の場合、オンライン申請で1万5900円、窓口申請で1万6300円、5年有効旅券ではオンライン申請で1万0900円、窓口申請で1万1300円、12歳未満の5年有効旅券ではオンライン申請で5900円、窓口申請で6300円(2025年5月時点)。日本の有効旅券数は2024年(令和6)末時点で約2164万冊。日本の旅券は、査証なしで渡航できる国数を示すヘンリー・パスポート指数で、2025年1月時点で193か国と、195か国のシンガポールに次いで世界第2位だった。
旅券は紀元前14世紀のアマルナ文書にすでに登場し、ローマ帝国時代には旅行者の人身保護規定が整い、18世紀のヨーロッパで平時の国境通過にあたり旅券を提示する制度が採用された。1985年には当時のヨーロッパ共同体(EC)加盟国および周辺国(スイス、ノルウェー、アイスランドなど)を旅券や審査なしで自由に往来できるシェンゲン協定(規則)が締結された。日本では、江戸幕府が1866年(慶応2)にA4判よりやや大きな身分証を初めて発行し、1878年(明治11)の海外旅券規則で法的に位置づけられた。根拠法である旅券法は、グローバル化や技術革新に伴い、たびたび改正されている。