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日本大百科全書(ニッポニカ)

アニマルウェルフェア

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アニマルウェルフェア
あにまるうぇるふぇあ
animal welfare

「動物の状態」のことであり、より具体的には「動物の生活と死の状況に関連した動物の身体的および心的状態」と定義され、「動物福祉」と訳される。動物の状態は、五つの自由five freedomsの観点から評価し、改善することができる。アニマルウェルフェアは、人による動物の利用を許容しない「動物の権利animal rights」や、人間の主観的な動物を愛(いつく)しむ気持ちを意味する「動物愛護」の考え方とは異なり、動物の利用を許容しつつも動物の状態を客観的に評価し、動物の生活の質を改善していくことを意図したものである。あらゆる動物に適用される概念であるものの、とくに産業動物(農用動物)のウェルフェアが大きな社会問題として顕在化している。

[新村 毅]2025年6月17日

アニマルウェルフェアの概念

アニマルウェルフェア、すなわち身体的・心的な動物の状態は、出血している、思い通りに体を動かせない、恐怖を感じるといった不快(マイナス)の状態と、欲求の強い行動を発現することができる、喜びを感じるといった快(プラス)の状態とに大別することができる。その不快と快の総和こそが動物の状態、すなわちアニマルウェルフェアである。そのため、アニマルウェルフェアは、択一的なものではなく、連続的なものであるといえる。また、生活の状況(動物が生きている環境)および死の状況(と畜:家畜を食肉等にするために安楽死させること)を含め、動物の一生を通じてアニマルウェルフェアを考えることが重要であり、不快の部分を少なくし、快の部分を多くすることによりアニマルウェルフェアを向上させることができる。

[新村 毅]2025年6月17日

評価の方法

アニマルウェルフェアは、全体的な動物の状態という一つのものであるが、それを切り分けて評価し改善する五つの自由という評価方法がある。その五つの項目とは、①空腹と栄養不良、渇きからの自由(良好な栄養)、②不快からの自由(良好な環境)、③恐怖と苦悩からの自由(正の精神的経験)、④痛み・損傷・疾病からの自由(痛み・疾病の予防)、⑤正常行動発現の自由(適切な行動)であり、この五つの観点から評価して、それらが満たされていれば動物の状態は良い状態であり、アニマルウェルフェアが良好であるということになる。実際には、この各項目のなかにも、非常に多岐にわたる項目があり、それらの観点から評価がなされる。たとえば、⑤正常行動発現の自由では、動物の行動は約80もの行動レパートリー(行動単位)からなっており、動物ごとに行動欲求も異なるため、実際にはいくつもの行動の評価項目が存在している。

[新村 毅]2025年6月17日

動物への配慮の思想

動物への配慮の考え方には、動物の権利、アニマルウェルフェア(動物福祉)、動物愛護の三つがある。歴史的には、採卵鶏の金網ケージ(バタリーケージ)などの集約的な畜産に対する批判がきっかけとなり、動物への配慮の運動がイギリスを中心に活発化した。そのなかで、科学者の側からアニマルウェルフェアが提案された一方、活動家の側からは動物の権利が提案された。動物の権利の考え方では、人間による動物の利用を許容せず、動物性食品の摂取を避ける菜食主義者(ベジタリアンvegetarian)や、卵や乳製品の摂取も避け、なおかつ皮やウールなどの動物製品を避けるビーガンveganへの移行が推奨される。動物愛護は、仏教の殺生禁止に由来する古くから存在する動物への配慮の思想でもあり、人間による動物の利用を許容するものの、動物を「かわいそう」だと思う、のように人間が主語になる点が特徴的な思想である。動物の権利および動物愛護との対比において、アニマルウェルフェアは、人間による動物の利用を許容しつつも、しかし、動物の一生を通じて動物の状態を客観的に評価し向上させる考え方といえる。

[新村 毅]2025年6月17日

世界的な状況

アニマルウェルフェアは、産業動物(農用動物)、伴侶(はんりょ)動物、動物園動物、実験動物、野生動物などのあらゆる動物に適用される概念であるため、各動物に多様なアニマルウェルフェア上の課題が認められる。なかには、法律化されているものもある一方、議論や研究段階にある課題など、状況はさまざまである。

 多様な動物のなかでも、生産性を重視した集約的な生産体系が確立されてきたウシ、ブタ、ニワトリといった家畜の飼育形態には批判が多く、畜産物の輸出入など貿易上の問題とも関わるため、世界的な課題に発展している。現在、国際獣疫事務局(WOAH:World Organisation for Animal Health)により家畜のウェルフェアについての世界基準が制定されており、正常行動を発現させるための環境の実現が推奨されている。ヨーロッパ連合(EU)では、家畜のウェルフェアが法律として定められており、2012年から採卵鶏のバタリーケージを禁止し、さらに放し飼い(ケージフリーcage-free)のように正常行動の自由を十分に満たし、高度にアニマルウェルフェアを達成する飼育形態へと移行しつつある。アメリカでは、多くの企業がケージ卵からケージフリー卵への切り替えを宣言する形で、ケージフリーへの移行が始まっている。一方で、アジアや南米など卵の消費が多く、高い生産性が求められる国々ではバタリーケージでの飼育が主となっている。アニマルウェルフェアを高度に達成することは、新たな設備を導入する費用がかかるほか、動物の行動の多様化や活動量の増加により生産性が低下するため、結果として、たとえば卵の価格が高くなるといった問題があり、アニマルウェルフェアの導入や拡大には生産者や行政のみならず、消費者の認知度の向上など多様な取り組みが必要とされる。日本では、農林水産省が「畜種ごとの飼養管理等に関する技術的な指針」と題したアニマルウェルフェアのガイドラインを制定しており、アニマルウェルフェアに配慮した生産体系の構築やアニマルウェルフェアの認知度を向上させるための活動が進められている。

[新村 毅]2025年6月17日

©SHOGAKUKAN Inc.

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