鶏卵や鶏肉などの生産物を利用するためにニワトリを飼養すること。生産の目的によって鶏卵生産用の採卵養鶏と鶏肉生産用のブロイラー養鶏に大別され、それぞれはさらに種鶏生産と商業用鶏飼育に区分される。また、飼い方によって庭先養鶏、平飼い養鶏、ケージ養鶏などに区分される。庭先養鶏は農家の庭先に放飼する方法で、かつては日本の農村にも普通にみられたが、現在の産業としての養鶏業では限られた面積に多数を収容できる立体的なケージ養鶏が採卵鶏では多く行われている。一方で、近年のアニマルウェルフェアの進展により、平飼いなどの広い空間に放し飼いにする飼育方式の増加もみられる。また、肉用鶏では平飼いの方式が採用されることが多い。
現在の養鶏業では、採卵鶏もブロイラーも実用鶏として生産に従事するのは交配種であり、雑種強勢(ヘテローシス)を利用するための二元交雑種から四元交雑種までが用いられることが多い。そのため種鶏生産を目的とする養鶏場では、近交度(近親交配の度合い)の高い純粋な系統をいくつか原原種として維持し繁殖させている。種鶏は、種卵としての有精卵をとるために、雌5~10羽に対して雄1羽を導入する。または個別ケージで管理し、人工授精によって有精卵を得る場合もある。四元交雑の場合は、二つの異なる原原種鶏の交配によって原種鶏を得た後、同様に原種鶏から種鶏を得て、種鶏どうしの交配によって最終的な商業生産用の鶏個体(コマーシャル鶏、実用鶏)を得る。これが四元交雑種の場合であり、実用鶏の父に雑種を使わず第三の系統を使えば三元交雑となる。実用鶏生産にこのような複雑な方式をとるのは、多数の個体を必要とする実用鶏を生産するには母鶏の産卵能力が高くなければならず、そのため雑種強勢の期待できる一代雑種を母鶏とするのが合理的なためである。
採卵養鶏では、種鶏生産業者の生産した実用鶏の雌を購入・飼育して食卵を生産する。大規模な企業経営のものが多く、立体式のケージ養鶏が多い。この方式は比較的少ない資本、狭い土地で行えるうえ、数羽をケージに収容するためニワトリどうしの闘争が少なく、採食も均一になりやすい。また、給水・給餌(きゅうじ)・除糞(じょふん)が機械化されるので省力管理が行いやすく、消毒などの衛生管理も容易となる利点がある。一方で、巣箱での産卵前行動や止まり木での休息行動、砂浴び場での砂浴び行動といったニワトリの正常行動を発現させることができないため、アニマルウェルフェアの観点からの問題は少なくない。また、ケージ養鶏の一つの利点として、かつては個体ごとの成績がはっきりと把握できるので淘汰(とうた)が容易である点があげられていたが、最近では群としての能力の変異が少なくなるよう育種されているので、管理上から全群を一時に導入し一斉に廃鶏にするオールイン・オールアウト方式all-in all-out systemがとられることが多くなっている。
ブロイラー養鶏の場合も同様に、種鶏生産業者の作出した交雑種を導入する。現在、スーパーマーケットなどで販売されている鶏肉の大多数は、白色コーニッシュと白色プリマスロックという2品種を二元交配させたF1品種(一代雑種)である。育種改良の結果、わずか7週間で体重約3キログラムに成長し、食用鶏として出荷される。一方で、やはりアニマルウェルフェアの観点からは、急激な成長が引き起こす突然死症候群による死亡や歩行が困難になるといった問題もある。ブロイラー養鶏では平飼いの群飼が普通で、餌(えさ)は不断給餌で自由に採食させる。
いずれの養鶏業でも孵卵(ふらん)・育雛(いくすう)・成鶏管理の各段階があり、それぞれを分業する場合が多いが、一貫して行う場合もある。
①孵卵には母鶏孵化と人工孵化の二つがあるが、産業としての養鶏業では孵卵器を用いた人工孵化が行われている。何万個も収容できる立体式の大型孵卵器で種卵を孵化させる。ニワトリの病気のなかには介卵感染をするものも多いので、消毒には十分注意する必要がある。採卵鶏の場合は卵を産むのは雌のみであるため、孵化直後の初生雛(しょせいびな)は雌雄鑑別を行い、雌雛のみが育雛される。指で総排出腔(こう)を開き生殖突起を見分ける指頭鑑別法が広く行われているが、一方で伴性遺伝形質である羽性によって性別がわかる羽毛鑑別も利用が多くなっている。
②採卵鶏の育雛養鶏は、初生雛を120日程度育成して産卵前の大雛(おおびな)として出荷する。ヒナの育雛と成鶏の卵生産を兼業する場合もある。人工育雛では孵化後1週間は33℃の温度を保ち、以後徐々に温度を下げて3~4週で人工的な保温を停止する。保温の方法には、傘形の育雛器の設置や温水をパイプに通す床面給温、温風による送風暖房などがある。傘形の育雛器では弱い雛は高温を好むので熱源に近く、強い雛は低温を好むので熱源から遠く、それぞれが適温のところを選ぶ。育雛期の衛生管理はとくに重要であり、病気の予防には万全の注意を払う必要がある。また雛を群飼で育成する場合、尻(しり)つつきや羽毛つつきなどの問題行動が発生する場合もある。これを防ぐためにビークトリミングbeak trimming(嘴(くちばし)の先端部の切断。デビークともいう)が行われる。生後10日以内を目途に、従来は嘴の先端を一気に焼き切るという方法をとっていたが、最近では、痛みを和らげるため、赤外線を嘴の先端に照射することで、その部分の組織を徐々に壊死させる技術なども導入されている。
③採卵鶏は、成鶏になり産卵を開始すると、急激に産卵率を増加させ、ピークに達した後、ゆるやかに減少し、1年ほど経過すると大きく減少する。強制換羽(きょうせいかんう)forced moltingは、その減少した産卵率をふたたび増加させるために、1週間程度の絶食を施して、産卵を停止させ、休産させるという管理方法である。一般的な方法として広く実施されているものの、最近では飼料中の栄養成分を低下させた餌を与えることで、餌を食べることはできるが産卵しない状態をつくりだし、休産・換羽を誘導する誘導換羽法induced moltingが用いられる場合もある。
日本で古くから養鶏が行われていたことは、神話のなかにニワトリが登場することからも推察される。しかしこのニワトリは、現在のように卵や肉を食用にするために飼われていたのではなく、主として時を告げる報晨(ほうしん)を目的として、また吉凶を占う闘鶏や娯楽のための闘鶏の目的で飼育されていたと考えられる。やがて肉や卵が食用に供されるようになったが、生産性の低い当時のニワトリではその利用はごく限られたものであった。江戸時代には、元来日本に存在していた地鶏と大陸から持ち込まれたニワトリ品種とを用いて、愛玩(あいがん)鶏としての改良が盛んに行われて、長鳴鶏(ながなきどり)の東天紅(トウテンコウ)・声良(コエヨシ)・唐丸(トウマル)、観賞鶏としての尾長鶏(オナガドリ)・蓑曳(ミノヒキ)・矮鶏(チャボ)などが次々と作出されている。一方で、鶏卵・鶏肉の消費も江戸時代にはしだいに一般化し、西日本から関西地方、愛知県にかけて養鶏が行われるようになった。
鶏卵生産の専門経営が成立したのは明治時代に入ってからで、愛知県を中心として、東海・関東・近畿・中国・四国の各地方へと産地は拡大した。産卵能力の遺伝的改良への熱意も高く、1939年(昭和14)には世界に先駆けて年間365卵を産卵した記録をつくっている。また、1924年(大正13)の増井清らの初生雛雌雄鑑別法の発見も、養鶏界への貢献を果たした。
第二次世界大戦で日本の養鶏業は大きな打撃を被ったが、昭和30年代の日本経済の高度成長期に飛躍的に発展した。輸入穀物を飼料源とした加工業型の採卵養鶏が急速な伸びを示し、同時に1960年(昭和35)ごろからブロイラー養鶏による生産が急激に増大した。穀物の輸入を扱う商社と飼料産業、養鶏業の強固な結び付きが、飼料生産から素雛(もとびな)を経て、鶏肉の加工処理から販売までを統合する体制(インテグレーション)を発展させた。
2024年(令和6)時点で公表されているデータでは、日本のニワトリ飼養数は約2億7000万羽(採卵鶏〈成鶏雌〉約1億3000万羽、ブロイラー約1億4000万羽)で、採卵鶏では世界第6位(2019)の飼養羽数である。日本人1人当りの年間鶏卵消費量は320個で、世界第4位の消費量となっている(2023)。