列車が、時速200キロメートル以上の高速度で、おもな区間を走行できる幹線鉄道をいう。日本では、新幹線がそれにあたる。ただし、ヨーロッパなどでは、在来線を改良して時速200キロメートル程度で走行しているものもあり、国際鉄道連合(UIC:Union Internationale des Chemins de fer)では、最高時速250キロメートル以上と定義している。なお、UIC統計は磁気浮上式鉄道を含まない。そのため、上海(シャンハイ)空港連絡鉄道は、2002年開業時の営業最高時速430キロメートル(2025年6月時点では時速300キロメートル)の磁気浮上式であるが、都市間を結ぶ幹線鉄道とはいえない。将来、幹線鉄道として磁気浮上式が実用化されたときには、上海空港連絡鉄道もUIC統計に取り入れられるであろう。本項においては、レール・車輪方式の鉄道について記述する。
1964年(昭和39)に開業した日本の新幹線の成功は、世界に鉄道事業再検討の気運を招き、欧米各国を高速鉄道の開発に取り組ませることとなった。新幹線は動力分散方式の電車列車を採用したが、当時のヨーロッパの高速鉄道では動力集中方式の機関車牽引(けんいん)列車を採用する例が多かった。
1970年代後半に機関車牽引列車による在来線での時速200キロメートル運転を実現したフランスでは、高速新線LGV(エルジェーベー)を建設し、新型高速列車TGV(テージェーベー)を投入、1981年にLGV南東線(パリ―リヨン間)を、最高時速260キロメートルで開業した。ヨーロッパで最初の、新線建設と専用車両をセットにした高速鉄道である。その後、フランスは、パリを起点とする高速新線を整備し、パリ―ル・マン―レンヌ間(大西洋線)、大西洋線に接続するトゥール―ボルドー間(南ヨーロッパ線)、パリ―カレー間(北ヨーロッパ線)、リヨン―マルセイユ/モンペリエ間(地中海線、ローヌ・アルプ線)、パリ―ストラスブール間(東ヨーロッパ線)などに建設した。また、パリのシャルル・ドゴール空港やリヨンのサン・テグジュペリ空港のように、空港に高速鉄道を直結し、高速列車が国内航空路線や近距離国際線の補完を行うようになっている。2023年10月1日時点で、LGVは延長2735キロメートルの路線網を有し、TGVの最高時速は320キロメートルである(以下、路線長の出典はUICの「HIGH SPEED LINES IN THE WORLD 2022」による)。
イタリアでは、1988年にローマ―フィレンツェ間の高速新線ディレッティシマ線を部分開業し、車体傾斜式列車ペンドリーノを使って、時速250キロメートルの運転を開始した。ペンドリーノは電車列車であるが、イタリアでは、これとは別に1994年から機関車と客車による高速列車の運転も開始した。その後、2008年ミラノ―ボローニャ間、2009年ボローニャ―フィレンツェ間およびローマ―ナポリ間などの高速新線9路線が開業している。最高時速はパドバ―ベネチア間220キロメートル、ローマ―フィレンツェ間およびナポリ―サレルノ間250キロメートル、その他路線300キロメートルとなっている。高速列車運行事業者は元イタリア国営鉄道のトレニタリア(Trenitalia)とNTV(Nuovo Trasporto Viaggiatori)社が競合しており、高速列車は前者のフレッチャロッサ(Frecciarossa)と後者のイタロ(Italo)が競争している。2023年10月1日時点で921キロメートルの路線網を有する。
ドイツは独自の高速列車ICE(イーツェーエー)を開発するとともに、高速新線(NBS:Neubaustrecke)を建設し、1991年からシュトゥットガルト―マンハイム間、ハノーバー―ウュルツブルク間を開業した。その後、1998年にベルリン―ハノーバー間が、2002年にフランクフルト・アム・マイン―ケルン間が、2006年にニュルンベルク―ミュンヘン間などが開業し、2023年10月1日時点で1631キロメートルの路線網を有する。
スペインでは、1992年にセビーリャ万国博覧会にあわせて、マドリード―セビーリャ間の高速新線を開業した。その後、バルセロナ、バレンシアなどへも路線網を拡大した。在来線は広軌(軌間1668ミリメートル)であるが、高速新線は標準軌(軌間1435ミリメートル)で建設されている。2023年10月1日時点で3917キロメートルの路線網を有する。
ヨーロッパ各国で高速新線が建設され、高速列車の相互直通運転も行われるようになっている。フランスのLGV北ヨーロッパ線は英仏海峡トンネル(ユーロトンネル)につながり、1994年から、パリとロンドンの間に高速列車ユーロスターが運行されている。また、2007年6月のLGV東ヨーロッパ線開業により、TGVとICEは、国境を越えた相互直通運転を行うようになり、ヨーロッパ連合(EU)域内の相互直通運転のための技術仕様(TSI:Technical Specification for Interoperability)が制定されている。また、EUの政策として、上下分離による国境を越えた列車運行のオープンアクセスを前提とする鉄道を含めた交通インフラ整備のための汎(はん)ヨーロッパ運輸ネットワーク(TEN-T:Trans-European Transport Network)が構築されつつある。この結果、フランスとイタリアの高速列車の相互直通運転やイタリアの鉄道事業者がフランスで列車運行を行うなどの事例が増えている。
ヨーロッパ以外でも高速鉄道の建設は行われている。韓国のソウル―釜山(プサン)間の高速鉄道は2004年4月に開業し、フランスの高速列車を導入した。台湾では台北(タイペイ)―高雄(たかお/カオシュン)間345キロメートルが2007年1月に開業し、ヨーロッパ規格の線路に日本製の高速列車(東海道新幹線700系をベース)が導入された。中国は日本、フランスおよびドイツの車両技術や信号技術導入による国産化を選択し、在来線の高速化(時速200キロメートル以上)とあわせて4万0493キロメートルの高速鉄道を開業し、さらに1万3063キロメートルの建設を進めている。
このほか、2009年開業のトルコなどが加わり、2023年10月1日時点で、トルコ1232キロメートル(以下キロと略記)をはじめ、韓国873キロ、サウジアラビア449キロ、オーストリア254キロ、ポーランド224キロ、ベルギー209キロ、モロッコ186キロ、スイス176キロ、イギリス113キロ、オランダ90キロ、デンマーク56キロと続いている。アメリカは在来線改良で735キロメートル(時速240キロメートルの運転区間はそのうち80キロメートル)の高速鉄道を営業している。また、インドネシアのジャカルタ―バンドン間142キロが2023年10月に開業。インドではムンバイ―アーメダバード間508キロが日本のODA(政府開発援助)により建設中である。このほかに、アメリカやベトナムでも高速鉄道建設計画がある。