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情報機関
じょうほうきかん

国家の行政組織の一つ。その任務は、政府の意思決定や軍の作戦・戦闘、そのほかの国家組織の政策や運用に寄与するため、国の予算を使って情報を収集し、集めた情報を分析・評価して政府中枢をはじめとする関係機関に提供することである。ここでいう「情報」とは、国家の特定の目的のために収集および分析・評価されるもので、一般的には「インテリジェンス」とよばれる。そのため、情報機関はインテリジェンス機関とも呼称される。一般的には国内外での情報収集を専門とする組織や軍事情報収集を専門とする組織が複数存在しており、個々の組織を情報機関、情報機関の集合体をインテリジェンス・コミュニティーとよぶ場合もある。

 各国の対外情報機関としては、アメリカの中央情報局(CIA)、イギリスの秘密情報部(SIS。MI6ともいう)、イスラエルのモサド、ロシアの対外情報庁(SVR)、中国の国家安全部、韓国の国家情報院などが存在する。日本には諸外国の対外情報機関に相当するような組織は存在しないが、外務省国際情報統括官組織(IAS)と同省の国際テロ情報収集ユニット(CTU-J)が限定的に海外での情報収集活動を行っている。なお、国内で情報活動や外国のインテリジェンス活動を監視する組織は、防諜(ぼうちょう)組織や保安・公安組織とよばれるのが一般的である。代表的な組織としては、アメリカの連邦捜査局(FBI)、イギリスの保安部(MI5)、イスラエルのシャバク(シンベトともいう)、ロシアの連邦保安庁(FSB)、中国の国家公安部、日本の警察庁警備局、法務省公安調査庁などがあげられる。国内といってもMI5は旧大英帝国諸国、FSBは旧ソ連邦諸国も担当することになっている。さらには、安全保障政策や軍事作戦のための情報を収集する軍事情報部があげられる。それらには、アメリカの国防情報局(DIA)、イギリスの国防情報部(DI)、イスラエルの参謀本部情報局(アマン)、ロシアの参謀本部情報総局(GRU)、中国の連合参謀部情報局、日本の防衛省情報本部(DIH)などがあげられる。多くの国では、軍事情報部が通信傍受情報(シギントSIGINT)を担当しているが、アメリカは国家安全保障局(NSA)、イギリスは政府通信本部(GCHQ)といった通信傍受に特化した組織を有しており、これらの組織はサイバー・セキュリティも担当している。

 欧米のインテリジェンス・コミュニティーは、国防予算のおおよそ3~10%で運営されている。たとえば、2025年度のアメリカのインテリジェンス・コミュニティーの予算は約730億ドルで、これは同年度のアメリカ軍の予算8500億ドルのおよそ8.6%になる。同年度のイギリスのインテリジェンス予算は、約46億ポンド(国防情報部であるDIの予算は含まない)で、国防費(600億ポンド)の7.7%程度、ドイツのインテリジェンス予算は17億ユーロ程度と推定されているので、国防費(510億ユーロ)と比べると3.3%程度の規模となる。

[小谷 賢]2025年6月17日

インテリジェンス・サイクル

情報機関のインテリジェンスは政策や軍事作戦を助けるものであることから、インテリジェンスを利用するまでの運用プロセスが重要となる。このプロセスはいくつかの段階に区分されて理解されているが、それらは、①政策・作戦サイド(情報を利用する側)が自らの利益や目的のための戦略を策定し、そのために必要な情報(インテリジェンス)を要求する(情報要求)、②情報サイド(インテリジェンスを作成する部門)は政策・作戦サイドからの情報要求を受けて情報収集を行う(情報収集)、③情報サイドは集めた情報を分析・評価しインテリジェンスを生産する(分析・評価)、④情報サイドは分析・評価した情報をインテリジェンスとして政策・作戦サイドに提出する(情報配布)、⑤政策・作戦サイドはインテリジェンスが役にたったかどうか情報サイドにフィードバックする、といった一連の流れでとらえられている。

 情報要求から情報配布までの過程は、円を描くような一連の流れで説明されることが多く、これは一般に「インテリジェンス・サイクル」とよばれている。基本的にインテリジェンス・サイクルは、政策・作戦サイドと情報サイドの間でのやりとりといえるが、政策・作戦サイド内、情報サイド内でもさまざまなレベルでサイクルが成立していることも見落としてはならない。

 どれほど優秀な情報機関が存在し、決定的な情報を入手していても、それをなんらかの目的につなげることができなければ、それは宝の持ち腐れとなる。インテリジェンス・サイクルの概念は、情報を収集、分析・評価、利用していく過程をわかりやすくモデル化したものである。

[小谷 賢]2025年6月17日

機能と任務

情報機関の活動を機能別に分類すれば、①情報収集活動、②防諜活動(カウンターインテリジェンス、後述。敵の情報活動および破壊工作に対する防御や無害化)、③秘密工作活動(後述)などに大別される。

 もっとも重要な任務は①で、公開あるいは非公開の情報を収集し、政府などが所要の決定をやりやすくし、かつ有効ならしめるために、その情報に専門的な知識、背景情報、あるいは科学的分析を加えることである。情報収集と諜報活動で集められた「生の情報」は情報資料(インフォーメーション)とよばれ、「生の情報」を情報源の信頼性、情報資料の正確度に基づいて分析した「分析・評価された情報」はインテリジェンスとよばれる。「分析・評価された情報」は外交・安全保障政策に活用されるほか、国内外の世論の形成、外国政府の政策決定に影響を与えるために、公式資料としてマスコミ、その他にタイミングよく配布、活用される場合もある。

 非公開の情報収集活動によって得られた情報は、人的情報(ヒューミントHUMINT。「スパイ」の項目を参照)、技術情報(テキントTECHINT)に分類され、テキントはさらに通信傍受情報(シギントSIGINT)、地理空間情報(ジオイントGEOINT)などに分類される。なお、ヒューミントやシギントなどは、それぞれスパイ活動や通信傍受活動をさす場合もある。シギントは無線やサイバー空間での交信記録を傍受し、必要があれば暗号解読を行い、相手方の意図を察知するものである。有名な事例は、1942年(昭和17)6月のミッドウェー海戦の直前、アメリカ海軍の通信傍受班が日本海軍の通信を傍受したものである。アメリカ海軍は傍受した通信の暗号を解読し、日本海軍の攻撃目標がミッドウェー島にあることをつきとめ、日本海軍機動部隊を迎撃した。2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻においても、米英はロシア軍の無線を傍受し、ウクライナ軍に情報を提供しているものと考えられる。ウクライナ侵攻では、米英はウクライナ軍にジオイントも提供しているとされる。ジオイントは、かつては画像情報(イミントIMINT)ともよばれていた、写真や動画による情報である。現在では偵察衛星やドローンによって必要な地域の撮影を行い、その画像を分析している。最近の偵察衛星であれば、衛星軌道上から地上の数十センチメートルの物体を判別できるとされており、人間の数や車の種類を見極めることもできる。また、衛星リモート・センシングによって、夜間や雲の下の撮影も可能であり、さらに地上の物体が何から構成されているのかの判別もできる。

 テレビや新聞、サイバー空間で得られる公開情報はオシントOSINTとよばれる。情報機関においても大部分の情報はオシントによって得られているが、その分析によっては情報の価値を高めることができる。近年ではネット上に拡散された画像や動画の真偽を判定し、正しい画像や動画から有益な情報を得ることもできる。このような活動は報道機関や非政府組織(NGO)といった民間組織にも可能であるが、これらの組織は国家の意思決定に寄与することはできないため、同じ公開情報を使用して情報収集活動などを行っていても、インテリジェンスとみなされないこともある。

 国内では外国のスパイが国益に損害を与えないように監視し、必要があれば法執行機関によって拘束することもできる。そのような活動を防諜活動とよぶが、英語圏ではカウンターインテリジェンス(CI)とよばれる。CIは法執行機関自らが実施する場合もあれば、専門の調査組織が実施することもある。CIを担当する情報機関は、外交官の肩書をもつ者、もしくは民間人として赴任している外国の情報機関員を監視し、自国の秘密が漏洩(ろうえい)しないように対策を行う。スパイの外国での活動について規定する国際法等はないため、外国スパイへの対処はスパイ防止法といった国内法に準拠し、法律違反が認められれば法執行機関が逮捕することもできる。ただし日本はそのような法体系を整備していないため、基本的には監視に留まっている。

[小谷 賢]2025年6月17日

秘密工作

情報機関は秘密工作活動Covert Operationも行う。これは外国に対するプロパガンダ活動から、破壊工作や暗殺工作まで含まれる。1970年代後半に東京で活動していたソ連の国家保安委員会(KGB)のスタニスラフ・レフチェンコStanislav Levchenko(1941― )は、情報収集に加え、日本国内でのプロパガンダ活動をも担っていた。その目的は日本の政財界、マスコミに働きかけ、日米関係を悪化させると同時に、日ソ関係を好転させることであった。そのための手段としては、マスコミの操作や支配、文書もしくは口頭による真実と逆の情報の流布などがあり、当時、日本のほとんどの新聞社内に協力者を抱えていたという。

 暗殺工作については、ロシアやイスラエルの情報機関が行うことが多い。イスラエルのジャーナリストであり、インテリジェンス分野の研究者でもあるロネン・バーグマンRonen Bergman(1972― )によると、とくにイスラエルは暗殺工作の行政的手続が定められており、情報機関長官と首相の裁可によって暗殺が実行される。さらにイスラエルはモサドだけでなく、アマンやシャバクも暗殺を行うことができるため、これまで数千人規模の暗殺が行われてきたという。しかしイスラエルの情報機関も完璧(かんぺき)を期することはできないため、ときに暗殺に失敗したり、暗殺の証拠を残したりすることで、国際的なスキャンダルとなることもある。2010年にドバイでハマスの高官であるマブフーフMahmud al-Mabhuh(1960―2010)が暗殺された際には、ドバイ各地の監視カメラに実行犯とみられるモサドの要員が写っており、ドバイ警察はこれを証拠として取り上げ、当時のモサド長官とイスラエル首相を暗殺の責任者と断定し、指名手配した。現在もイスラエルのモサドは、イランの核開発を阻止するために核物理学者や技術者に対する暗殺や脅迫を繰り返しているといわれる。

[小谷 賢]2025年6月17日

情報機関の監視

情報機関は大統領や首相に直結している国もあれば、各大臣の統制下にある場合もあるが、基本的には行政機関であるため、政治指導者の指示によって動く。しかしときには秘密工作活動も行うため、その存在は危険視されがちである。1970年代には、対外情報機関であるCIAがアメリカ国内で自国民を監視していたことが明るみに出て問題となった。これは、情報機関は自国内の自国民を監視対象としてはならない、との規則を破っていたことになる。そのため、アメリカでは議会も情報機関を監視すべきであるとの声が高まり、1980年代に与野党の政治家などからなる情報監視委員会が大統領のもとに設置され、議会の上院と下院それぞれに情報特別委員会が設置された。アメリカの情報機関は、情報収集活動や秘密工作活動について委員会に報告すべき義務を課され、これを軽んじた場合、委員会は情報機関が要望する予算や人事について拒否することができる。そのため、アメリカの情報機関は情報監視委員会や両院の情報特別委員会を無視して活動することはむずかしい。この制度は欧米諸国にも広まっており、2014年(平成26)には、日本でも特定秘密の運用を監視するための情報監視審査会が衆参両院に設置されている。

[小谷 賢]2025年6月17日

©SHOGAKUKAN Inc.

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