一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が自ら日々の始業・終業時刻、労働時間を決めることのできる制度(労働基準法32条の3)。1987年(昭和62)に労働基準法が改正され、1988年から導入された。労働者自身が始業・終業時刻、労働時間を決めることができるので、労働者の仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を図りながら、効率的に働くことができるというメリットがある。厚生労働省の「令和6年就労条件総合調査」によると、企業の7.2%(従業員数1000人以上の企業では34.9%)が同制度を採用している。
労働者がいつ出退社してもよい時間帯である「フレキシブルタイム」と、労働者がかならず勤務しなければならない時間帯である「コアタイム」から構成される。対面でのコミュニケーションや情報共有など、協業の観点からコアタイムが設定される場合が多い。ただし、コアタイムの設定は必須(ひっす)ではなく、すべての労働時間を完全に労働者にゆだね、フレキシブルタイムとすることも認められる。このような働き方は「オール・フレキシブルタイム制」、「スーパーフレックスタイム制」とよばれることもある。
フレックスタイム制を導入するためには、始業および終業の時刻を労働者の決定にゆだねる旨を規定した就業規則などの整備、ならびに、労使協定の締結が必要となる。労使協定では、対象となる労働者の範囲、清算期間(同制度において労働者が労働すべき時間を定める期間)、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間、コアタイム・フレキシブルタイム(設定する場合に限る)などについて定めなければならない。
フレックスタイム制が導入されている場合、法定労働時間(1日8時間、1週40時間。労働基準法32条)を超えた労働はただちには時間外労働とはならず、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間数が時間外労働となり、割増賃金の支払い対象となる。1か月の法定労働時間の総枠は、清算期間の暦日数31日で177.1時間、暦日数30日で171.4時間、暦日数29日で165.7時間、暦日数28日で160.0時間となっている。導入時の清算期間の上限は「1か月」であったが、2019年(平成31)4月1日から施行された働き方改革に関連する法改正により上限が「3か月」となった。清算期間が延びたことによって、月をまたいだ調整が可能となり、労働者の都合にあわせたより柔軟な働き方や、繁閑に対応した効率的な業務の配分が可能となった。ただし、清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制については、清算期間の開始日以後1か月ごとに区分した期間ごとに、平均して1週間当りの労働時間が50時間を超える場合は、当該超過部分は法定時間外労働となり、割増賃金を支払わなければならない(労働基準法32条の3第2項)。