AV(アダルトビデオ)出演被害を防止し被害者を救済するための法律。正式名称は「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」(令和4年法律第78号)。通称「アダルトビデオ出演被害防止・救済法」「アダルトビデオ出演被害救済法」「AV出演被害救済法」「AV被害救済法」「AV新法」。2022年(令和4)6月15日に成立した(同年6月23日施行、罰則規定のみ7月12日施行)。
本法は、AV出演に関連した被害を防ぎ、出演者の性に関する自己決定権の保障をはじめとして、個人としての人格を尊重し、出演者の性をめぐる個人の尊厳が重んじられる社会の形成に資することなどを目的としている。
法制定の背景としては、AV業界におけるさまざまな人権侵害や不正行為が社会問題化したことがあげられる。とくに、AVへの出演を意に反して強要されるケースや、出演者が事前に説明を受けずに契約を結ばされるケース、出演料の不払いなどが問題になり、法整備が議論になっていた。また、2022年の民法一部改正により、成人年齢が18歳に引き下げられたことも本法の制定を後押しした。
(1)契約および撮影等に関する規制
AV制作者はAV出演者と、一つのAV作品ごとに契約を締結しなければならない(過去の複数のAVを編集しまとめ直したいわゆる「オムニバスAV」も別途新たな契約が必要)。その際、制作者は出演者に対して、契約内容を詳細かつ明確に説明しなければならない。また、出演者は、一定期間内であれば理由を問わず契約を解除できる。制作者は、出演者に契約書を交付してから1か月の間は撮影ができない。撮影時には制作者は出演者の安全に配慮する義務があり、出演者は意思に反した撮影を拒否することができる。さらに撮影終了後4か月は、出演者が内容を確認する時間を保障するため、映像の公開が禁止されている。
契約が無効であったり、取消しや解除を受けた場合には、制作者は動画のネット配信やDVDの販売、レンタルなどを中止しなければならない。その場合、出演者は損害賠償責任を負わず、また出演料を返還しなくとも契約の解除が可能である。なお、契約に基づかないAVの公表については、この法律の施行前に制作公表されたAVであっても、差止めを請求することができる。
(2)罰則
AV制作者が会社であるか個人であるかにかかわらず、出演者と出演契約を結ぶ者が以下の行為を行ったときは、犯罪として処罰される。
①任意解除等を妨害するために、真実を告げなかったり、威迫した場合には、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)が科され、法人には1億円以下の罰金が科される(本法20条、22条)。
②契約書を渡さなかったり、説明を尽くさなかった場合には、6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(併科あり)が科され、法人にも100万円以下の罰金が科される(本法21条、22条)。
(3)出演者に対する救済措置
内閣府は、地域における被害者支援の中核的な役割を担う相談体制として、都道府県を通じ、「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」を設置している。ここでは、専門家による契約の解除やすでに公表されたAVを差し止めるための法的支援などが行われる。なお、未成年者のAV出演契約は無効とされ、とくに厳しい規制が設けられている。
本法による社会的な影響としては、AV業界の透明化とAV出演者の安心感が向上したことがあげられる。すなわち、AV制作側に対し、その責務が明確化されたことによってより高い透明性やコンプライアンス(法令遵守)が求められるようになった。また、AV出演者については、出演者が自らの意思で出演や映像の配信等を決定できる環境が整備されつつある。
この法律の施行によって、AV業界における不適切な行為や違法行為が抑制され、出演者の権利が守られ、個人としていっそう尊重されることが期待される。