性的姿態を同意なしに撮影するなどの行為を処罰し、被害の発生・拡大を防止するための法律。正式名称は「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(令和5年法律第67号)。「性的姿態撮影等処罰法」「盗撮処罰法」などと略される。2023年(令和5)6月16日に成立した(同年7月13日施行)。
「性的姿態等」とは、①性器や臀部(でんぶ)、胸部などの身体の性的部位、②性的な部位を隠すための下着、③性交等が行われている間の姿態であり、これらを同意なく撮影する行為(盗撮行為)などの処罰と、盗撮画像の没収や消去などを可能とし、盗撮被害の発生と拡大の防止を目的としている。
盗撮が重大な問題になってきた社会的背景には、スマートフォンなどの情報機器の進化と普及がある。とくにスマートフォンの普及で盗撮が容易に行われるようになっただけでなく、ネットへの拡散が瞬時に行われ、被害が拡大することが問題を大きくした。
法的な背景としては、次のような事情もある。従来、盗撮行為は、刑法に処罰規定はなく、軽犯罪法や児童買春児童ポルノ処罰法、都道府県のいわゆる迷惑防止条例などで処罰されてきた。しかし軽犯罪法では罰則(拘留または科料)が軽く、児童買春児童ポルノ処罰法では、被害者が18歳未満の児童に限られていた。また、迷惑防止条例は、社会秩序や公衆の安心感などを損なう行為の防止が第一義的な目的であるため、盗撮行為が公共の場所で行われた場合を処罰対象としており、学校や会社などの更衣室での盗撮は住居侵入罪にしか問えず、またタクシー内での盗撮行為なども処罰対象とすることがむずかしかった。さらに航空機の中など、都道府県の境をまたいで盗撮が行われる場合、どこの条例を適用すべきかの判断がむずかしかった。こうしたことから、全国一律に適用される法律が成立したメリットは大きい。
(1)処罰対象となる盗撮行為の類型(同法2条)
①正当な理由なく、人の性的姿態等をひそかに撮影する行為(同法2条1項1号)
正当な理由なく、人の性的姿態等をひそかに撮影する行為であり、トイレや浴室の盗撮、電車内などで女性のスカートの中を撮影する行為が典型例である(3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)。
②同意できない状態の被害者を撮影する行為(同法2条1項2号)
相手が「撮影に同意できない状態」で性的姿態等を撮影する行為であり、たとえば暴行・脅迫やアルコールまたは薬物の影響によって、同意の意思を形成・表明できない状態や、経済的・社会的に優越的立場に基づく影響力を利用するなどして行う撮影行為である。
③被害者を誤信させて撮影する行為(同法2条1項3号)
たとえば自分以外はだれも見ないとだまして性的姿態等を撮影する行為である。
④13歳未満の者と13歳以上16歳未満の者の性的姿態等を撮影する行為(同法2条1項4号)
相手が16歳未満の場合には、撮影に同意したとしても撮影罪に問われる。ただし、その相手が13歳以上16歳未満の場合、相手と5歳以上年齢が離れている者がその性的姿態等を撮影する場合に処罰対象となる(高校生同士が同意のうえで撮影するケースなどが除外される)。相手が13歳未満の場合は、同意の有無・年齢差にかかわらず、撮影罪が成立する。
⑤未遂(同法2条2項)
①~④の場合は、未遂であっても処罰される。
(2)盗撮行為による画像の扱いに関する処罰行為の類型
①盗撮画像の提供行為(同法3条)
盗撮画像を第三者に提供する行為であり、法定刑は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金である(同法3条1項)。不特定多数の者に提供あるいは公然と陳列した場合は、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科もあり)である(同法3条2項)。
②盗撮画像の保管行為(同法4条)
提供目的での盗撮画像の保管行為であり、法定刑は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金である。
③盗撮画像送信(同法5条)
不特定多数に対して盗撮画像をネットに送信する行為であり、法定刑は5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金である(併科あり)。
④盗撮画像記録(同法6条)
盗撮画像をダウンロードして記録する行為であり、法定刑は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金である。