市民社会で活動する人々の集合体からなる組織。英語の頭文字をとってCSOと略される。市民社会において人々は共通の利益や関心で結びついているが、そのための中心的な働きをする組織体が、市民社会組織である。各組織の共通の利益や関心はきわめて多様であり、物質的なものも非物質的なものも含まれる。
人々が形成する社会の領域は、国家など政治制度を中心とする公的な領域と、家族や友人関係などの個々人の私的な領域(親密圏)の間に広く存在しており、人々がさまざまな形で結びついて活動している。また、大きく政治社会、経済社会、そして市民社会にも分別される。政治社会は政党など国家と社会を結ぶ政治活動の領域であり、経済社会はビジネスや金融などの企業活動や市場にかかわる活動の領域である。そして市民社会は、公私の領域の間にあって、政治社会と経済社会と一部重なりつつ存在する領域である。多様な人々が集まるため、市民社会組織の共通の利益や関心も多様になる。
市民社会組織には具体的には、広く利益団体とよばれる団体である労働組合、経済団体、農業団体、専門家団体や、宗教的な影響を受けて社会活動や政治活動を行う団体、社会運動を行う集団、NGO(非政府組織)、NPO(民間非営利組織)、住民自治組織などが含まれる。企業や政党、政府機関、家族など親密な人々の集団(親族、宗族など)は含まれない。宗教団体は含まれる場合と、そうでない場合がある。また、市民社会組織とその意味や範囲が完全に重なるわけではないが、これらの市民社会組織が非営利セクター、社会団体、第三セクターとよばれる場合もある。
市民社会組織は、外部から把握できる程度の、一定の継続性や恒常性をもった組織集団であり、活動体である。国家や企業から一定の自律性を有しているが、なお国家によって一定の制約を受けている。すなわち登録や認証、法人格の付与、法的な規制、補助金の付与などである。
市民社会という概念は、西洋社会に起源をもち長い歴史があるが、市民社会組織にあたる組織は世界のどの地域においても、歴史的にも地域的にも普遍的に存在している。しかし、世界的にこうした名称で把握され注目されるようになったのは、1980年代以降の世界的な民主化の進展、とりわけソビエト型社会主義体制への反体制運動が生じ、東ヨーロッパ諸国などにおいて自由化と体制転換が生じてからである。同じころ、開発途上国や新興国においても、政治体制の自由化と民主化の担い手として注目されるようになった。
市民社会組織は量的にも急拡大し、とりわけ1990年代から2000年代には、世界の多くの地域で爆発的に台頭した。この社会変化は、アメリカの政治学者レスター・サラモンLester M. Salamon(1943―2021)によって、アソシエーション(結社)革命associational revolutionと命名された。他方で、民主主義の体制的基礎が脆弱(ぜいじゃく)な国家では、政府や政権党からの規制や介入が増大した。
市民社会組織の機能としては、①人々が討論を日常的に行う機能、民主主義の熟議の場としての機能、②利益団体や社会運動として人々の利害や価値を表現する利益表出の機能、政策(施策)決定の過程に影響を与える機能、③社会において必要とされる公共サービスを担う機能、④社会における信頼や協力を育む機能、社会関係資本としての機能などがある。
市民社会組織が活力をもてる環境と民主主義体制の興隆とは、歴史的にも相関的な関係にあることが検証されている。2010年代以降、世界の民主主義体制の揺らぎが指摘され、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などインターネット上の活動空間が拡大するなかで、政治体制の民主化と民主主義の維持発展、政治の安定において市民社会組織の果たす役割への注目が高まっている。市民社会組織は、社会関係資本や熟議など上記の四つの機能から重要であり、人々の間の信頼を高め協調を促すネットワークとして、社会の側から政治体制のガバナンスを高めることができるからである。