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宇宙兵器

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宇宙兵器
うちゅうへいき

確定的または普遍的な定義は存在しないが、一般に、宇宙に対し(to Space)、宇宙において(in Space)、または宇宙から(from Space)攻撃を行うという三つのカテゴリーの兵器をいい、宇宙を通過して(through Space)攻撃を行う弾道ミサイルや部分軌道爆撃システム(FOBS:Fractional Orbital Bombardment System)、極超音速滑空兵器(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)はこれに含まれない。また、通信衛星や航法衛星、偵察衛星などの攻撃の支援にのみ使用される宇宙システムも、一般的には宇宙兵器とはみなされない。宇宙兵器について国際法(宇宙条約)では、地球を周回する軌道に、核兵器を含む大量破壊兵器を乗せることや、月などの天体上において、軍事基地を設置することや兵器実験を行うこと等のみが禁止されている。

 1番目のカテゴリーの宇宙に対し攻撃を行う兵器としては、地上、海上または空中から発射される各種の衛星攻撃兵器(ASAT(エーサット):Anti-Satellite Weapon)がある。直接上昇方式(DA:Direct Ascent)ASATとして知られる衛星攻撃用ミサイルは、衛星を直撃し破壊する。初期のDA-ASATは、アメリカによって1950年代後半から開発された。当時は衛星に直撃させるほどの技術力はなかったため、弾頭に核兵器を用いたものが配備されたが、その能力は低かった。1980年代には技術が向上し、F-15戦闘機から発射されるASM-135対衛星ミサイルは、通常弾頭を搭載し、衛星の破壊実験に成功した。2007年、中国は、DF-21準中距離弾道ミサイルを改造したミサイルで自国の気象衛星を破壊する実験を行った。この破壊は比較的高い高度で行われた結果、数十年以上にわたって宇宙空間に残り続けるスペースデブリ(宇宙ごみ)が大量発生し、史上最悪のASAT実験として国際的な批判を浴びた。また、2021年にロシアが行ったASAT実験では、発生したスペースデブリの軌道が国際宇宙ステーション(ISS)の軌道と接近することが予期されたため、宇宙飛行士はISSに係留されている帰還用の宇宙船に退避を強いられた。

 DA-ASATに類似するものとして、ミッドコース段階(中間段階)の弾道弾迎撃ミサイルがある。弾道弾迎撃用のアメリカの海上発射ミサイルであるSM-3やイスラエルの地上発射ミサイルであるアロー3は、ミッドコース、つまり宇宙空間(大気圏外)を飛翔(ひしょう)中の敵の弾道ミサイルを破壊する。これらの弾道弾迎撃ミサイルは、2023、2024年にイスラエルに向けて周辺国から発射された中距離弾道ミサイルを、宇宙空間において撃破しており、宇宙空間における物理的破壊を伴う戦闘は、すでに現実のものとなっている。ミッドコース段階の弾道弾迎撃用ミサイルがDA-ASATと近似する証左として、2008年、アメリカは、制御不能となって地上落下のおそれのあった自国の偵察衛星をこのSM-3を用いて低軌道において破壊したことがあげられる。

 旧ソ連では、1970年代に共軌道方式(Co-Orbital)ASATとして知られる地上発射の衛星攻撃兵器を完成させた。これは、攻撃衛星を地球周回軌道にあげ、目標衛星に接近、衝突させて目標衛星を破壊するものであり、現在でもロシアはこの種の兵器を使用できるとされる。

 また、近年では、こうしたキネティック兵器(kinetic weapon:運動エネルギーによる兵器)だけでなく、ノンキネティック兵器(non-kinetic weapon:運動エネルギーによらない兵器)の実用化も進められている。ノンキネティック兵器には、地上発射型や空中発射型のレーザー兵器や電磁パルス(EMP:Electro Magnetic Pulse)兵器などの指向性エネルギー兵器があり、人工衛星を焼損したり搭載された電子機器を破壊したりする。キネティック兵器による攻撃の結果は、つねに物理的な破壊を伴い不可逆的であるのに対し、こうしたノンキネティック兵器は、攻撃を光電センサーの妨害や一時的な盲目化などの可逆的な範囲にとどめることも可能であることが特徴とされる。このほかにも、電波妨害やサイバー攻撃も可逆的な攻撃としてすでに使用されている。

 2番目のカテゴリーの宇宙において攻撃を行う兵器としては、1970年代のソ連の有人宇宙ステーションであるアルマース(サリュート3号)に機関砲が搭載され、射撃実験にも成功していたことが知られている。2025年時点で、人工衛星の搭載兵器として考えられているものには、衛星に搭載した子衛星を目標衛星に衝突させ破壊させるものや、衛星にロボットアームなどを搭載して目標衛星を破壊したり軌道から引きずりおろしたりするもの、衛星からレーザーや高出力電磁波を発射するもの、化学薬品を散布するものなど、さまざまなものがある。また、2020年代以降、小型衛星によるコンステレーション化が急速に進むようになり、こうした多数化・分散化した衛星を一網打尽にするため、ロシアは衛星攻撃用の核兵器を搭載した衛星を開発しているのではないかという懸念が報じられている。

 民間では、宇宙空間の持続可能な利用に向け、スペースデブリの除去や軌道上サービス(衛星の修理や燃料補給)を行う商業衛星が開発されているが、その基本となるランデブー・近接運用(RPO:Rendezvous and Proximity Operation)技術は、衛星攻撃技術と本質的に同一のものであり、兵器と非兵器との判別は困難とされる。

 3番目のカテゴリーの宇宙から攻撃を行う兵器としては、軌道上から電柱状の金属棒を地球上の目標地点に向けて投下するものや、超大型の太陽電池パネルによる太陽光発電の電力で地球上に電磁波攻撃を行うものなどが考えられてはいるが、オープンソースでその実在が確認されているものはない。ただし、高度約40~400キロメートルで行われる高高度核爆発(HANE:High Altitude Nuclear Explosion)は、地上に爆風や熱線は届かないものの、強力な電磁パルスが上空と地上の広い範囲に降り注ぎ、さまざまな電子機器を破壊または機能停止させることが冷戦期における米ソの核実験によって知られている。

 2025年4月、アメリカ宇宙軍はドクトリン文書を発表し、「宇宙は戦闘領域であり、支援活動の集合体ではない。紛争においては、宇宙は争奪の場となる。宇宙軍は宇宙で戦うことを使命とする軍隊である」と述べ、これまでの支援中心の宇宙活動からの決別を示しており、今後、こうした宇宙兵器の開発、取得が急速に進んでいくものと思われる。

[山田尊也]2025年8月19日

©SHOGAKUKAN Inc.

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