各自治体から申請された、歴史的経緯や地域の風土に根ざした伝承や風習を踏まえた「ストーリー」(物語性)を、文化庁が認定する遺産。2015年度(平成27)に、18件が初めて認定された。
「ストーリー」が地域の歴史的特徴・特色を示す興味深さや斬新(ざんしん)さなどを有し、日本の魅力を十分に伝える内容になっていること、地域づくりの将来像とその実現に向けた具体的な方策が示されていること、日本遺産を通じた地域活性化の推進が可能となる体制が整備されていること、が認定の基準とされている。認定されると多言語によるホームページの作成やガイド育成などの事業費が国から補助される。なお「ストーリー」には単一の市町村内で完結する「地域型」と、複数の市町村にまたがって展開する「シリアル型(ネットワーク型)」がある。
「物語性」を重視したため、地域に受け継がれている有形・無形のあらゆる文化財が対象となったことや、地方指定あるいは未指定の文化財も含めることができるなど、日本のこれまでの文化財の考え方を大きく広げるものとなっている。個々の遺産を「点」として指定・保存する従来の文化財行政のあり方から、点在する遺産を「面」として活用・発信するあり方にシフトしたものといえる。また、文化の保護よりは、地域の活性化と、海外に向けた魅力発信といったことが目的とされている点も、これまでの文化財行政から大きく舵(かじ)をきった点である。
日本遺産に認定されることが国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産へのステップになるわけではないが、第1回認定の18件のなかには、水戸市の「弘道館(こうどうかん)」や栃木県足利(あしかが)市の「足利学校」などを含む「近世日本の教育遺産群―学ぶ心・礼節の本源―」や「四国遍路(へんろ)~回遊型巡礼路と独自の巡礼文化~」など、2007年に文化庁が世界遺産の候補物件を各自治体から公募した際に見送りとなったものの、その後も世界遺産登録を目ざしている物件が一定数含まれており、世界遺産の補完的な意味合い、あるいは「予備軍」としての位置づけもかいまみえる。
その後、2016年度に19件、2017年度に17件、2018年度に13件、2019年度(令和1)に16件、2020年度に21件が認定され、6年間で104件が認定された。2020年度を最後に新規認定はいったん終了したが、日本遺産を活用した継続的な取組みを推進するため、認定地域には、認定後3年間は財政支援などが行われることとなった。
日本遺産については、認定されたのちも地域の活動状況などを審査し、十分成果があげられなかった物件は認定が解除されることとなっている。2025年2月には、「古代日本の『西の都』~東アジアとの交流拠点~」(福岡県、佐賀県)が初めて認定を解除され、新たに「北海道の『心臓』と呼ばれたまち・小樽(おたる)~『民の力』で創られ蘇った北の商都~」(北海道)が認定された。今後もこうしておおむね100件前後の認定件数を維持するとされている。