本書は,高校生以上の英語学習者ならびに教授者を対象にした,『ロイヤル英文法』の改訂新版である。本書の旧版は幸いに読者のご好評を得て,文法辞典の機能も備えた詳細な英文法書として,高校生から一般社会人までの幅広い読者層の支持を受け,10年以上の間愛読され続けてきた。この間,版を重ねるごとに,読者からの質問や目立った語法の変化などに対応すべく,部分的修正を行ってきたが,21世紀の幕開けとともに,旧版を一字一句徹底的に再検討して,多数の新情報を盛り込み,全体で約100ページ増という形で,ここに改訂新版として装いを新たに世に送ることになったものである。
この激動の10年間に,英米で新たに刊行,改訂された辞書,文法・語法書は多種多様で,最近の英米語の文法・語法の変化の目覚ましさを実によく反映している。しかし,それらを子細に検討すると,くだけた現代風の言い方を紹介しているものも多い反面,破格構文や卑語・俗語を排し,現代の標準語法を説くものも少なくなく,これには想像されるような英米差はない。
一方,インターネットの目覚ましい普及・進歩に伴って,コーパス検索による言語使用の実態研究も劇的に発展し,現代の英語使用の実情を把握することが容易になり,ある言い方の実際の出現頻度が,最新の話し言葉,書き言葉についてどのような実態であるかが,瞬時にして検索できるようになった。また,世界の各種のホームページから,ネット上で,さまざまな階層の人々の使っている生きた言語の実態を参考にすることも可能になった。
今日,英米のみならず,我が国でも,こうした資料に基づいた文法・語法の新情報はあふれんばかりであるが,情報があまりにも多いと,どれが正しいのか,どれを信頼すべきかに迷ってしまう。情報過多のこの時代に,最も妥当と思われる形でこれをまとめて示すことはきわめて重要である。知識としての文法・語法ではなく,実用としての文法・語法を考えるとき,億単位の語数を基盤にした実際の英米の言語資料を縦横に検索して,その実態を確認しながら,ふつうに用いられている形や,まれにしか用いられない形を調べて,これを読者に提供するのは,大いに意義のあることと思われる。
堅い文体の読み書きには,もちろん文法の知識が絶対に必要であるが,最近の e-mail の普及に伴って,「くだけた口語調の文体」で「書く」必要も出てきたことにも注目すべきである。たとえくだけた言い方であっても,メールを読むときだけでなく,自分の意思を正しく相手に伝え,しかも礼を失しないように書くには,口語文法の知識は欠くことができなくなった。こういった意味でも,口語文法の必要性がますます大きくなったといえる。
一方,話す場合にも,談話の機能や,丁寧さの度合いなどを心得ておかなければ,現実の国際社会に通用しないことは明白である。
こうした事情を踏まえて,本書は幅広く現代英米語の実態を調べ,くだけた言い方と堅い言い方とをはっきりさせて,現代に通用する正しい話し言葉と書き言葉に適用される文法・語法を,可能な限り詳しく解説して,国際社会に役立つ,生きた実用的な英米語の基礎知識を示そうとしたものである。
章建ては旧版のままとしたが,今回の改訂のポイントは次の点にある。
以上の方針に従って,重要な事項を可能な限りわかりやすく述べることに心がけた本書が,読者の座右の書として役立つことを願うものである。
各章別の責任分担は旧版に準じたが,今回の改訂新版ではすべての英文について Petersen 氏が徹底的に校閲・加筆され,また対話文の作成に当たられた。全章を通しての記述内容の改訂・校閲と最終的調整は綿貫が行った。
改訂に当たって,内外の語学専門書・辞書ならびにコーパスから受けた恩恵は計り知れないものがあるが,特に参照させていただいたものを巻末に記して感謝を捧げたい。また,今回の改訂の企画に当たられた斎田昭義氏と,終始貴重なご意見を賜った五味貞男氏,初版に次いで校正の労をとられた山口保夫氏,詳細な索引を作られた古賀千早氏に厚くお礼を申し上げたい。
2000年10月 綿貫 陽