流産または死産の経験が2回以上ある状態。ただし、生産歴(生児を生んだ経験)の有無は問わず、流産または死産が連続している必要はない。不育症のうち、流産を2回以上連続しておこすものを反復流産、3回以上連続しておこすものを習慣流産という。胎囊(たいのう)が確認されず妊娠反応出現のみに終わる生化学的流産は妊娠に含めず、胎囊が確認されたもののみを妊娠とし、その後(妊娠22週未満)に妊娠が終了したものを流産として計上する。流産自体は全妊娠の約15%におこるが、不育症の頻度は日本では5%、欧米では2.5%未満とされている。
流産の原因でもっとも多いのは、受精胚(はい)の染色体の数が46本でなく、それより多かったり少なかったりする異数性を有する例である。母体の年齢の上昇に伴い、染色体の異数性の出現頻度が高まることから、不育症の頻度も母体の年齢とともに上昇する。また、子宮内腔(ないくう)の慢性炎症や子宮の形態異常は流産や死産をおこしやすく、不育症の原因となる。子宮形態異常には、中隔子宮などの先天性のものと子宮筋腫(きんしゅ)、子宮腺筋症、子宮腔(くう)内癒着などの後天性のものがあり、どちらも不育症の原因となりうる。これらは子宮卵管造影や超音波、MRIなどの画像検査により診断される。形態異常の有無にかかわらず、妊娠の進行とともに子宮頸管(けいかん)が開大する頸管無力症も不育症の原因となる。母体の有する疾患、素因のために不育症となることもある。そのなかには、抗リン脂質抗体症候群、甲状腺機能低下症、糖尿病、血栓症をおこす傾向のある血栓素因を有するもの、高度の肥満が含まれる。両親のいずれかが染色体構造異常を有する場合も不育症の原因となる。高度のストレス、喫煙、過度のアルコール摂取などの生活習慣が不育症の原因となっていることもある。
それぞれの原因に応じた治療が必要となる。子宮形態異常に対する手術などの外科的治療、慢性炎症に対する抗菌薬の服用、母体の有する疾患、素因に対するそれぞれの内服治療、生活習慣の改善が必要である。両親の一方に染色体構造異常がある場合や、反復する流死産が受精胚の染色体異数性に起因する可能性が高い場合は、受精胚に対する着床前遺伝学的検査(PGT)を行うことで流産を回避して生児獲得につなげることが可能である。