物体に触れることなくその物体の種類や状態を調べる技術で、一般に、人工衛星や航空機に搭載されたセンサーで地球を観測し、地球の環境状態を調べることに用いられる。遠隔探査または隔測などの訳語がある。あらゆる物質は、その状態に応じてさまざまな波長の電磁波を反射または放射している。各種のセンサーを使って、物体から反射または放射される電磁波を観測し、間接的にその物体を調べることがリモート・センシングの基本原理である。われわれは、通常、人の顔を見て「顔色悪いね。体調、大丈夫?」などというが、これは、われわれの目というセンサーが、相手の顔色を検知し、その色合いから相手の体調を推測していることになる。つまりわれわれは日常的に「リモート・センシング」をしているということができる。
リモート・センシングの起源は、1858年にフランス人の写真家ナダールが熱気球から行った航空写真の撮影だといわれている。その後、凧(たこ)やハトを使った写真撮影が行われるようになり、1909年にはライト兄弟の兄、ウィルバーWilbur Wright(1867―1912)が航空機から地上を撮影したという記録がある。リモート・センシングという用語は、1950年代にアメリカ海軍調査局(ONR:Office of Naval Research)の地理学者プルーイットEvelyn Pruitt(1918―2000)が多波長カメラ、赤外フィルムや写真以外のスキャナーを用いた新しい撮像技術を「remote sensing」と表現したことに由来するといわれている。その後、1960年代初頭に、ONRが取りまとめた白書にこの名称が明記され、以後、アメリカで徐々にこの用語が広まっていった。しかし、リモート・センシングという用語が世界的に知られるようになったきっかけは、1972年にNASA(ナサ)(アメリカ航空宇宙局)が打ち上げた地球観測衛星ランドサット(Landsat。打上げ時の名前は地球資源技術衛星ERTS(アーツ):Earth Resources Technology Satelliteであったが、後に改名)1号の登場である。この衛星に搭載されていた可視域2、近赤外域2の合計四つの波長帯で観測する多波長放射計(MSS:Multi Spectral Scanner)は、当時としては画期的な約80メートルの空間分解能(約80メートル×80メートルの領域を1点として観測する能力。空間分解能の数値が小さいほど、地上の細かな状況を識別することができる)を有していた。宇宙から観測された世界各地のランドサット衛星画像は資源、農業、林業、環境などのモニタリングにきわめて有効なことが明らかになり、世界中でリモート・センシングの研究が精力的に行われるようになった。
日本では1970年(昭和45)、科学技術庁(現、文部科学省)にERTS計画に参加する準備として、資源技術衛星データ判読技術検討委員会が設立された。引き続き1973年には総理大臣任命の資源調査会から勧告28号「地球資源隔測の推進構想」が出され、このときに「リモート・センシング」の日本語訳として「隔測」という新語が採用された。ランドサットデータの利用が可能になると、国内でも大学や研究機関などでリモート・センシングの研究が行われるようになった。リモート・センシング普及のため、1975年には財団法人リモート・センシング技術センター、1981年には日本リモートセンシング学会が設立された。また、リモート・センシングは写真測量技術が基になっているため、日本写真測量学会では以前からリモート・センシングの研究に取り組んでおり、その学会誌名は1975年から「写真測量とリモートセンシング」となっている。
一般に、地表面の草地、森林、水域といった観測対象は、電磁波に関してそれぞれ特有の反射、放射特性をもっている。たとえば、芝生が緑に見えるのは、緑の波長帯の光(電磁波)を強く反射しているからである。リモート・センシングでは、おもに太陽光を光源とし、地表面で反射または放射された電磁波を衛星や航空機に搭載されたセンサーで観測して地表面の状態を推定している。観測に使用される電磁波は、可視域(約400~700ナノメートル)から、近赤外域(約700~1500ナノメートル)、中間~遠赤外域(約0.0015~1ミリメートル)、マイクロ波域(約1ミリメートル~80センチメートル)にわたる。また、特殊な例として、オゾン層などの観測には紫外線(約300~400ナノメートル)も用いられている。しかし、地表面とセンサーの間に存在する大気を通過する間に電磁波は大気中の水蒸気、炭酸ガス、酸素などによって、特定の波長帯で大きく吸収される。このため、リモート・センシングでは、観測対象物の反射・放射特性だけでなく、大気の透過・散乱特性も考慮して、観測波長帯を選定する必要がある。
リモート・センシングの観測機器(センサー)は、受動型センサーと能動型センサーに大別できる。受動型センサーは、太陽から放射され、地上の対象物で反射された電磁波、または太陽に関係なく対象物から放射された電磁波(熱放射など)を観測する。地表から反射または放射された可視域から熱赤外域までの電磁波を複数の波長帯に分けて観測する分光放射計や、地上から放射されるマイクロ波を観測するマイクロ波放射計は受動型センサーである。一方、能動型センサーは、センサー自身が電磁波を放射し、地上の対象物から反射される電磁波を観測する。自分でレーザー光を放射し、その対象物からの反射光を観測することで、対象物までの距離や大気中の微量成分を計測するライダー(Lidar)や、自分で電波を発射してその反射波を観測するマイクロ波高度計(Altimeter)や合成開口レーダー(SAR(サー):Synthetic Aperture Radar)は、能動型センサーである。
各種のセンサーを搭載した衛星や航空機などの移動体を、リモート・センシングではプラットフォームとよぶ。2010年代にはカメラを搭載した無人航空機(ドローン)の普及が進み、ドローンもリモート・センシングの重要なプラットフォームの一つとなりつつある。
リモート・センシング用の観測センサーを搭載した人工衛星をリモート・センシング衛星、または地球観測衛星とよぶ。リモート・センシング衛星としてもっとも有名なのは、前述のアメリカの地球観測衛星「ランドサット」シリーズで、1972年に1号が打ち上げられてからシリーズ化され、2021年の9号機まで打ち上げられ、データは世界中で直接受信・利用されている。次に有名なのがフランスの人工衛星「スポット(SPOT)」シリーズで、1986年に1号が打ち上げられてから2014年の7号機まで打ち上げられ、ランドサットと同様に世界中で利用されてきた。日本では1987年(昭和62)に「MOS-1(モスワン)」(海洋観測衛星「もも1号」)が打ち上げられて以来、さまざまなリモート・センシング衛星が打ち上げられている。1977年に1号機が打ち上げられた気象衛星「ひまわり」もリモート・センシング衛星の一種であるが、当初はアメリカのメーカーが「ひまわり」を開発していたため、日本初の国産リモート・センシング衛星は「MOS-1」ということになっている。
当初、リモート・センシング衛星を所有していたのはアメリカ、フランス、日本、ESA(イーサ)(ヨーロッパ宇宙機関)、旧ソ連だけであったが、その後、カナダ、インド、中国、ブラジルをはじめ、世界各国でリモート・センシング衛星を開発・打上げ・運用するようになった。光学センサーの空間分解能も徐々に向上し、2021年に打ち上げられたフランスのエアバス・ディフェンス・アンド・スペース社Airbus Defence and Space SASのプレアデス・ネオPléiades Neo3号は、空間分解能30センチメートルを達成している。
かつて、リモート・センシング衛星は重量3トン以上の大型衛星が主流であったが、21世紀に入って急速に小型化が進んだ。2015年にアメリカのプラネット・ラブズ社Planet Labs PBCが打上げた「Dove(ドーブ)衛星」の重量はわずか5キログラムである。こうした小型化に伴い、打ち上げられる衛星の数も年々増加しており、2015年に運用されていたリモート・センシング衛星の数は333機であったが、2023年には4倍近い1192機に達している。
リモート・センシング衛星が地球を周回するおもな軌道は、静止軌道と極軌道に大別できる。静止軌道は、赤道上空3万6000キロメートルを地球の自転周期と同じ周期で周回する軌道で、地球からは衛星は静止して見えるため、その名前がある。気象衛星ひまわりは静止軌道から太平洋全域を常時観測している。赤道上空には、国際連合(国連)の世界気象機関(WMO)の枠組みのもと、日本、アメリカ、ヨーロッパ、インドなどの静止気象衛星が配置され、全球を常時観測している。一方、極軌道は、北極と南極を結ぶ軌道で、衛星は高度約500~900キロメートルで地球を周回している。地球は北極と南極を結ぶ地軸を中心に横方向に自転するので、衛星が縦方向に周回するたびに違う地域を観測することができ、やがて元の場所に戻ってくることで、全球観測が可能となる。多くの地球観測衛星は、極軌道を周回している。
衛星に搭載されている観測用センサーで観測されたデータは、デジタル信号に変換されて地上受信局に送信される。受信局で受信される信号には幾何学的なゆがみなどが含まれている。受信したデータはそのまま未補正データとして保管され、ゆがみは次のデータ処理の段階で補正される。さらに、一般に使われている地図の投影法にあわせた投影変換などが施される。処理を終えたデータは、一般の利用者がそれぞれの計算機で解析処理が行えるように、数値データとしてDVDやHDDなどの記録媒体に記録して配布される。インターネットの高速化に伴い、オンラインで提供されることも多くなった。写真の提供を希望する利用者には、印画紙などに印刷して配布される。海面水温や水蒸気量のような物理量を求める場合には、計測しようとする電磁波エネルギーが大気中を通ってくる間に被る減衰などの影響を除去・削減する補正処理が必要である。また、衛星画像を地図などに重ね合わせるには、幾何補正が必要である。かつては、専門的なソフトウェアがなければ、こうした処理・解析が行えなかったが、徐々に安価なソフトウェアパッケージが市販され、かつ、JAXA(ジャクサ)(宇宙航空研究開発機構)、NASA、ESAなどの宇宙機関がインターネット上でデータを簡便に入手・解析できるポータルサイトなどを開設するようになり、リモート・センシングの利用の裾野(すその)は広がっている。
リモート・センシングの利用は、多方面に及ぶ。たとえば建設分野では、道路・鉄道・ダム・港湾などの建設や管理、地図作成などに使われ、国土情報としての土地利用図の作成に利用されている。農業・林業分野では、作付把握、収穫量予測、病虫害監視などに広く使われ、世界規模での調査に有効とされている。また、鉱物・エネルギー資源分野では、地質構造から、資源の存在有望地域を世界規模で探査するために使われている。漁業の分野では、衛星が観測した広域な海面水温分布画像が、各漁船の漁場探査に欠かせない情報となっている。地球環境変動もリモート・センシングの重要な観測対象である。地球的規模での森林の減少や砂漠化などの調査にも広く使われており、アマゾンの大規模な森林伐採はランドサット衛星などの画像から明らかになった。オゾンホールの拡大傾向を画像化したのは、NASAの衛星に搭載された紫外線センサーである。また、1978年に始まった衛星搭載マイクロ波放射計による観測は、約40年を超える継続観測で北極海の夏の海氷分布面積が半減したことを明らかにし、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が地球温暖化を断定する根拠の一つとなっている。火山の噴火、洪水、地震、津波などの災害監視でも、衛星観測は被害状況の把握に不可欠な存在となっている。2011年(平成23)の東日本大震災の際には、世界各国から5000シーンを超える衛星画像が日本に提供された。環境問題に国境がないように、リモート・センシングにも国境はない。各国が連携して地球観測衛星を活用し、地球環境変動監視や再生資源の有効利用に役だてていくことが求められている。