明確な基準はないが、1人当りの国民所得が低く、開発の途上にある国をさす。先進国に相対するものとして、かつては後進国、低開発国などといわれた。1960年代初めごろから、発展あるいは経済開発が進みつつある国として発展途上国または開発途上国という語が使われるようになったが、開発途上国といういい方が一般的である。抽象的に発展途上というよりも、具体的になにが「途上」であるかを明確にするには、経済、産業、技術が開発途上にあるという文脈で使われる開発途上国といういい方のほうが妥当であるからである。単に途上国と表現されることも多い。
第二次世界大戦後の国際情勢においては、政治的意味合いを含めて、開発途上国はしばしば第三世界ともよばれた。このことばは、西側諸国にも東側諸国にも属さない国々をさすものとして、冷戦時代に使われたものである。アメリカ合衆国や西ヨーロッパ諸国、日本などの西側の資本主義を標榜(ひょうぼう)する諸国が第一世界、旧ソビエト連邦、中華人民共和国(中国)とその同盟国からなる東側の社会主義を標榜する諸国が第二世界とよばれた。しかし1990年代初頭の冷戦終結とソビエト連邦崩壊を経て、第二世界が消滅してからは、第三世界ということばもほとんど使われなくなった。開発途上国が中心となった新たな政治勢力をさすことばは、新興国もしくは新興経済国、あるいはグローバルサウスに置き換えられつつある。
開発途上国の経済開発に永年関与してきた国際復興開発銀行(世界銀行)は、開発途上国を大きく、1人当りの国民所得が低い順に、低所得国、下位中所得国、上位中所得国の3グループに分け、先進国を高所得国とよんでいる。上位中所得国は、中進国とよばれる国々とほぼ重なっている。2024年度版の世界銀行の『世界開発報告』においては、低所得国にエチオピア、アフガニスタンなど26か国、下位中所得国にベトナム、インド、ガーナなど51か国、上位中所得国にタイ、中国、ブラジル、南アフリカなど54か国が掲載されている。地域別には、低所得国や下位中所得国の多くが、サハラ以南のアフリカおよび南アジアに集中している。国際連合(国連)は、開発途上国のなかでもとくに貧しく脆弱(ぜいじゃく)な国を、後発開発途上国(Least Developed Countries:LDC)と定義し、2024年12月時点では44か国がこれに該当する。世界銀行の低所得国と国連のLDCはかなり重なっており、経済的には所得水準が低く、一次産品部門(とくに農業)を中心とする産業構造をもち、生産性も低い傾向をもつ。また、内戦や紛争が頻発している開発途上国の多くが、LDCないし低所得国となっている。
前掲の『世界開発報告』によると、2022年度時点で低所得国には地球全体の人口の8.9%、下位中所得国には40.3%が含まれ、あわせると世界人口のほぼ半分となる。しかし、地球全体の国内総生産(GDP)に占める低所得国と下位中所得国の合計の比率はわずか8.9%であり、世界の所得格差の大きさが見て取れる。開発途上国は所得が低いだけでなく、教育や健康なども先進国の水準を大きく下回っていることが多い。国連開発計画(UNDP)は、人々の生活水準を1人当りの国民所得だけで測るのは不十分であることから、平均寿命、成人の平均就学年数、児童の就学率をもとにした将来の平均就学年数予測、1人当りの国民総所得(GNI)の四つの指標を総合した人間開発指数(Human Development Index:HDI)を作成しており、毎年、その数値を『人間開発報告書』で公開している。その2023/2024年度版によると、指数が計算されている193か国中33か国が人間開発低位国に分類されており、その平均寿命は61.6歳、成人の平均就学年数は4.7年である。これらの値は、人間開発がもっとも進んだ上位69か国の値に比べて、それぞれ78%、38%にすぎない。所得面で絶望的な格差が先進国との間に存在し、十分な教育を受けることが国民全員に保障されず、先進国では問題にならないような病気でも簡単に命を落としてしまうがゆえに平均寿命が短い。これが、開発途上国のなかでも相対的に所得水準が低い諸国が抱える絶対的貧困の問題である。
開発途上国のうち、1970年代に急激な工業化に成功し、高い経済成長を遂げた韓国、台湾、香港(ホンコン)、シンガポールなどは、当時、NIES(ニーズ)(新興工業経済地域)とよばれたが、現在は先進国の仲間入りをしている。これらの国々で採用された輸出指向工業化の発展モデルは、東南アジア諸国や中国に取り入れられ、高い経済成長につながった。しかし中国、マレーシア、タイ、インドネシアといった、輸出主導型で高成長を成し遂げた諸国は、いまだ上位中所得国にとどまっており、先進国入りはできていない。開発途上国が上位中所得国にまで経済発展した後、成長が鈍化し、先進国の所得水準に届かなくなる傾向は、「中進国(中所得国)の罠(わな)」とよばれる。この罠を克服するために必要な政策や制度に関する議論が続いている。
このように、ひと口に開発途上国といっても、経済的・政治的に非常に多様である。途上国の間の所得格差があまり縮小しないなか、開発と環境の調和といった新たな課題も深刻になりつつあるのが開発途上国である。