働く意欲と能力のある高齢者を雇用すること。高年齢者雇用安定法(正式名称「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」昭和46年法律第68号)における「高年齢者」は、55歳以上の人をさす。また、45歳以上の人は「中高年齢者」と定義される。なお、高年齢者雇用安定法は、1971年(昭和46)に制定された「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」を1986年に改称したものであり、高年齢者等の雇用の安定、シルバー人材センターに関する法律である。
高年齢者と若年者の就労決定における大きな違いとして、年金受給の有無があげられる。日本の公的年金制度は、現役世代が国民年金の被保険者となって、高齢者が基礎年金を受給する方式(賦課方式)をとっている。少子高齢化に伴う年金の世代間の負担バランスを調整するために、年金支給開始年齢の引上げが行われており、高年齢者の退職時期も後ろにずらされてきている。高年齢者の雇用確保の推進を目的として、2013年(平成25)施行の改正高年齢者雇用安定法は、事業主に対して、継続雇用を希望する者の65歳までの雇用確保を義務づけた。2021年(令和3)には、同法がふたたび改正されて、70歳までの就業機会の確保が事業主の努力義務となった。これには、従来の定年年齢の引上げ、定年制の廃止、継続雇用制度の導入に加えて、業務委託契約や事業主がかかわっている社会貢献事業への従事など、多様な選択肢が含まれている。
2023年の日本の高齢者の労働力人口比率(15歳以上人口に占める労働力人口〈就業者と完全失業者の合計〉の割合)をみると、65~69歳で53.5%、70~74歳で34.5%となっており、いずれも上昇傾向にある。日本の高齢者の労働力人口比率は国際的にみて高い水準にある。2020年3月に発表された労働政策研究・研修機構の調査によると、高齢就業者の働く理由(複数回答)は、「経済上の理由」が76.4%で、ついで「いきがい、社会参加のため」という理由が33.4%に上る。なお、「時間に余裕があるから」「健康上の理由(健康によいからなど)」など、高齢就業者はさまざまな理由で働いているという特徴がある。
高齢者雇用には、若年者に比べた場合の転職・再就職のむずかしさに加えて、大きく二つの課題がある。一つは、定年後の継続雇用における処遇である。定年退職後に嘱託社員として働く際の給与は、現役時と比べて大幅に低下することが多い。2020年3月に発表された労働政策研究・研修機構の調査によると、55歳当時雇用者で定年後も仕事をした人の賃金変化について尋ねたところ、定年に到達した直後の賃金額が減少したと回答した男性(60~64歳)は77.0%で、その減少幅は「41~50%」24.8%、「31~40%」17.9%となっており、給与減少が働く意欲の低下を招いている。もう一つは、高齢就業者の労働災害の多さである。2024年に発表された厚生労働省の調査によれば、労働災害による休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の高齢者の割合は29.3%(2023)であり、その労働災害発生率は、30歳代と比較すると男性で約2倍、女性で4倍にもなる。60歳以上の労働災害の種類では、「転倒」「墜落・転落」「動作の反動・無理な動作」の順に多く、高齢者の身体機能の低下への職場の対応が求められている。