「正社員の雇用」を意味する正規雇用の対義語。アルバイト・パートタイム労働者(パート)、契約社員、嘱託社員、派遣社員、請負労働者、期間工、季節工などが含まれる。非典型雇用ともいわれる。
非正規雇用はおもに四つの軸で分類される。労働時間がフルタイムかパートタイムか、雇用契約期間に期間の定めがない(無期)か有期か、雇用契約関係が勤め先と同じか異なるか、指揮命令関係が勤め先と同じか異なるかであり、これら四つの雇用関係の区分のうち、一つでも後者にあてはまれば、非正規雇用とみなされる。
非正規雇用者数は、1990年(平成2)に881万人で(役員を除く)雇用者の約2割を占めていたが、2024年(令和6)には2126万人で雇用者の36.8%を占めるほどに拡大してきた。この間、女性パートタイム労働者の増加、2004年(平成16)労働者派遣法(正式名称「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」昭和60年法律第88号)改正に伴う製造業での派遣社員の増加、高年齢者雇用安定法(正式名称「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」昭和46年法律第68号)の改正(2012年と2020年の改正。施行はそれぞれ翌年)後の契約・嘱託社員の増加などがあった。
非正規雇用が拡大した理由には、グローバル化や情報技術の進展による財・サービス市場の不確実性の高まりがある。需要や収益の変化に応じて労働費用を増減させたい企業にとって、基本給や福利厚生費・社会保険料などの固定的な費用の調整はむずかしいため、労働時間や雇用の調整が弾力的に行える非正規雇用を活用する誘因が高まった。とくにバブル経済崩壊後の過剰雇用を経験した企業では、業務を外部(委託)化し、外部請負や派遣労働を活用する動きがあった。一方、労働者からみても、家事・育児などの制約がある人は、生活時間と労働時間のバランスがとりやすいパートタイム労働を希望し、また、さまざまな企業でフルタイム勤務して経験を積みたい人には、契約社員や派遣社員は魅力的な雇用形態となった。
拡大してきた非正規雇用には、さまざまな問題も生じている。一つは、不本意就労である。「正社員として働く機会がない」ために非正規雇用で働く不本意非正規雇用労働者が存在する。とくに、バブル経済崩壊後の採用抑制に直面した就職氷河期世代には、非正規雇用の職につかざるを得なかった人たちが少なくなかった。ただし、非正規労働者全体に占める不本意非正規雇用の割合は、2013年に19.2%であったが、緩やかな景気拡大と人手不足により、2024年には8.7%にまで低下している。もう一つは、正規雇用との処遇格差(非正規雇用者は、正規雇用者と比べて、退職金制度、賞与支給制度、自己啓発援助制度などの適用率が低い)である。たとえば、2023年の厚生労働省の調査では、パートタイム労働者の賃金水準は、フルタイム労働者と比較して約3割低い。正社員は、勤続年数が長く、業務の難易度が高く、転勤・異動、時間外労働などを伴う面もあるため、非正規雇用者と同じとはいえないが、学歴、年齢、勤続年数、職種の違いを考慮してもなお賃金格差が存在する。
こうした正規・非正規雇用の間の不合理な格差を是正するため、2018年6月、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号。いわゆる「働き方改革関連法」)が成立した。雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保、同一企業内における正規・非正規の間の不合理な待遇差の解消を目ざして、2020年4月より、同一労働同一賃金ガイドラインに沿った雇用管理が求められるようになっている。