解説・用例
(「沙」はすな、「汰」はえらび分けるの意)
(1)水中でゆすって砂の中から砂金や米などをえり分けること。転じて、物、人物の精粗をえり分けること。淘汰。
*西洋聞見録〔1869~71〕〈村田文夫〉後・二「一泓池(ためいけ)を造り、其傍にて沙汰瀘過する処置を設け」
*蜀志‐許靖伝「天下之士、沙汰穢濁、顕抜幽滞」
(2)物事の是非をえらび分けて正しく処理すること。始末すること。処置すること。
(イ)政治上の処理。政務のとりさばき。
*続日本紀‐延暦五年〔786〕四月一一日庚午「所司詳沙汰、明作条例奏聞」
*栄花物語〔1028~92頃〕煙の後「後冷泉院の末の世には、宇治殿入り居(ゐ)させ給て、世のさたもせさせ給はず」
*今昔物語集〔1120頃か〕一六・七「若狭の国に可沙汰(さたすべ)き事有て行く也けり」
*平家物語〔13C前〕三・行隆之沙汰「今は出仕し給へ。官途の事も申し沙汰仕るべし」
*入来院家文書‐建武四年〔1337〕二月一二日・足利直義御判御教書「於恩賞者、追可有其沙汰」
(ロ)知行すること。庄務を行なうこと。
*龍造寺文書‐文治二年〔1186〕八月九日・源頼朝下文「右件所者、藤原季家依相伝之由緒、給府宣令沙汰之処、為神崎郡住人海六大夫重実被妨之」
*壬生新写古文書‐承元元年〔1207〕一二月日・鎌倉将軍家下知状「凡地頭庄務間事、所詮任前地頭時貞法師之例、可致沙汰」
*入来院家文書‐建長四年〔1252〕六月三〇日・関東裁許状案「吉枝名下地者、先例為地頭進止之間、前地頭上総介跡、六十余年無其沙汰」
(ハ)年貢諸役をとりたてること。また、それを納入すること。
*東寺百合文書‐は・弘安二年〔1279〕三月一八日・平成近請文(大日本古文書一・七)「右件御年貢は、今年八月内にけたいなく沙汰しつかまつり候へく候」
*入来院家文書‐貞和五年〔1349〕六月二三日・渋谷重勝置文「諸公事任先例そのさたをいたすへし云々」
*東寺百合文書‐ち・永享三年〔1431〕九月二九日・廿一口方評定引付(大日本古文書三・八)「諸庄薗段銭之事、厳密可被懸也、此段去年雖有治定。于今無其沙汰」
(ニ)弁償すること。支払うこと。負債等を分担すること。
*御成敗式目〔1232〕五条「犯用之条若無所遁者、任員数可弁償之、但於少分者早速可致沙汰、至于過分者三个年中可弁済也」
*山科家礼記‐文明二年〔1470〕一〇月一一日「今夕汁在之、佐渡守・藤左衛門出来、佐渡守汁沙汰巡仕候也」
(ホ)とりたてて行なうこと。考えて取り計らうこと。
*梁塵秘抄口伝集〔12C後〕一〇「鳥羽院崩(かく)れさせ給て、物騒がしき事ありて、あさましき事出で来て、今様沙汰も無かりしに」
*徒然草〔1331頃〕九一「赤舌日といふ事、陰陽道には沙汰なき事なり」
*連理秘抄〔1349〕「賦物は昔よりしつけたる事なれば、尤も沙汰すべし」
*こんてむつすむん地〔1610〕一・八「しゃうぢきなる人にまじはり、善事のたよりとなる事をさたせよ」
*吾輩は猫である〔1905~06〕〈夏目漱石〉六「本気の沙汰とも思はれない事を本気の沙汰らしく云ふ」
(ヘ)殺すこと。成敗すること。
*大乗院寺社雑事記‐長祿二年〔1458〕一〇月四日「一昨日畠山・遊佐、於八幡て細川披官人を沙汰云々。仍令腹立自細川畠山に可申所存云々」
*大乗院寺社雑事記‐文明一一年〔1479〕一一月八日「昨日於畠山屋形甲斐庄〈廿五歳云々〉被沙汰了」
*大乗院寺社雑事記‐明応五年〔1496〕二月一六日「唐橋宰相於九条御所前関白殿手自御沙汰」
(3)物事の是非や善悪などをとりさばくこと。
(イ)裁判。訴訟。公事。
*今昔物語集〔1120頃か〕三一・二四「中、風(おこり)たりと云て、沙汰(さた)の庭に不出ざりければ」
*太平記〔14C後〕三五・北野通夜事「或時徳宗領に沙汰出来て、地下の公文と、相模守と訴陳に番(つがふ)事あり」
*御伽草子・さいき〔室町末〕「一族に所領をとられ、京都へ上りさたするといへども、さらにみちゆかずして、年月を送れどもかひなし」
(ロ)問題として論議すること。検討。評議。
*中右記‐永長元年〔1096〕正月一〇日「明日行幸御出方角沙汰也、明日太伯神在東、然者可被用西陣歟」
*一枚起請文〔1212頃〕「もろこし我がてうにもろもろの智者達のさたし申さるる観念の念にも非ず」
*史記抄〔1477〕九・呉太伯世家第一「呉音漢音の沙汰は呉漢軽清燕趙重濁と云ふは国を以て云ふぞ」
*こんてむつすむん地〔1610〕一・三「がくしゃうのさたするむつかしきがくもんは、なげきても又なにかせん」
(ハ)論議される点。教理。
*増鏡〔1368~76頃〕八・あすか川「ある時は止観の談義、ある時は真言の深きさた、浄土の宗旨などを尋ねさせ給つつ」
(4)情報を与えること。
(イ)決裁されたことについての指令。指図。命令。下知。
*本朝文粋〔1060頃〕七・申犯平頭及第不及第并犯蜂腰落第例等状〈紀斉名〉「方今係綸不及諸儒、沙汰独在少臣」
*今鏡〔1170〕三・虫の音「とばなんどをもよろづ女院の御ままとのみさたしをかせ給へれど」
*たまきはる〔1219〕「ぢゃうばんの女ぼう廿人ばかりは、みのさうぞく、ほかいなどまで、みなかみより御さたあり」
*金刀比羅本保元物語〔1220頃か〕下・新院御経沈めの事「其後御所は国司秀行が沙汰(サタ)として、当国四度郡直嶋と云ふ所に作り奉る」
*御成敗式目〔1232〕一条「加修理若及大破、言上子細、随于其左右可有其沙汰矣」
*浮世草子・けいせい伝受紙子〔1710〕一・三「尤罪科かろからず、重て御沙汰(サタ)あるべし」
(ロ)報知。報告。通知。消息。たより。また、吹聴すること。
*宇治拾遺物語〔1221頃〕一・三「いまより、此翁、かやうの御あそびに、かならず参れといふ。翁申すやう、沙汰に及び候はず、参り候べし」
*浮世草子・傾城色三味線〔1701〕大坂・四「此十兵衛殿などにも、沙汰御無用に候」
*浄瑠璃・平家女護島〔1719〕四「病気のさはり入道殿へはさた御無用」
*随筆・独寝〔1724頃〕下・一〇一「色のあかふて親なんどのしかりなば、宜しくさたしてやらん」
*滑稽本・東海道中膝栗毛‐発端〔1814〕「コレいも七、持参金のさたがないがどふする」
(ハ)話題にすること。評判。うわさ。
*梁塵秘抄口伝集〔12C後〕一〇「後に、賀茂の者どもさたすと、資賢語りしにぞ聞きし」
*愚管抄〔1220〕五・後白河「後夜方には算の音なりける、こゑすみてたうとかりける、など人沙汰しけり」
*太平記〔14C後〕二・師賢登山事「俄なる不思議出来ぬれば、人皆あはて騒で、天地も只今打返す様に、沙汰せぬ処も無りけり」
*中華若木詩抄〔1520頃〕中「京には、東坡こそ南方にて死したれと、沙汰するぞ」
*俳諧・談林十百韻〔1675〕下「何百年の辻堂の月〈正友〉 飛騨の工茲に沙汰してきりぎりす〈志計〉」
*浮世草子・傾城色三味線〔1701〕京・四「世間の人に、奢(おごり)のやうに沙汰せられんもむつかし」
(ニ)(他の語に付けて接尾語のように用いることもある)話題になっている事件。
*中右記‐大治二年〔1127〕三月六日「斎院卜定所自御本所相当大将軍方、可被避忌哉否事、〈略〉今度沙汰出来、猶可被憚歟」
*役者論語〔1776〕賢外集「坂田藤十郎方、大いにはやり、七三郎甚不評判にて、よからぬさたのみすくなからず」
*其面影〔1906〕〈二葉亭四迷〉六五「世の情死(しんぢゅう)沙汰を聞く度に、寧ろ無残に思ふ哲也であるから」
方言
(1)訴訟。事件。
(2)知らせ。通知。便り。挨拶。
(3)死亡の通知。
(4)うわさ。評判。
(5)大変なこと。困ったこと。
(6)大失敗。大しくじり。
(7)分際を越えていること。僭越(せんえつ)。
語源説
(1)沙(すな)を水で淘(ゆ)り、沙金をえりわける意が転じたもの〔大言海〕。
(2)定の義〔俚言集覧・名言通・俗語考・菊池俗言考〕。
(3)サトシ(諭)の語幹サトの転か〔国語の語根とその分類=大島正健〕。
発音
[タ][サ]平安江戸[サ]
辞書
色葉・文明・明応・天正・易林・日葡・書言・ヘボン・言海
→正式名称と詳細
表記
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